地層は大地の記憶。湧水は大地の働き。そして酒は、その水と人の営みが出会ったところに生まれる。 天橋立を世界遺産に 150
2026年10月11日 in 世屋・高山ガイド部会 by yasuda | No comments

(↑ 向井酒造 | 伊根町グルメ | 海の京都観光圏uminokyoto.jp)
おお、安田さん、これは伊根の舟屋と向井酒造をつなぐ、実にいい地質の問いですね(^.^)
「水に恵まれていないように見える土地で、酒蔵はどうやって酒造りの水を確保しているのか?」
ここには、岩石の種類だけでなく、地下水の通り道、地形、井戸の掘り方が関係します。
先に結論を申し上げると、火成岩の地域にも地下水はあります。岩石そのものに水がたくさん含まれているというより、岩の割れ目などに水が集まり、流れている場合があるのです。
ただし、向井酒造が「約200mのボーリングで酒造用水を確保している」というお話については、井戸の深さや取水層、実際の地質柱状図などを確認できていないため、現段階ではその水がどのような地下水なのか、断定はできません。
1. 火成岩なのに、水があるのはなぜ?
岩石の中を水が通るしくみは、大きく三つあります。
① 岩の割れ目
火成岩は、できた直後には水を通しにくいものが多いのですが、地殻変動や冷却によって割れ目が生じます。割れ目がつながっていれば、雨水が浸透し、地下水の通り道になります。
② 岩盤の上の風化帯
岩盤が長い時間をかけて風化すると、岩が細かく崩れたり、割れ目が広がったりします。その部分に水がたまったり流れたりすることがあります。
③ 岩盤の上や谷底の堆積物
岩盤そのものではなく、その上に積もった砂礫や、谷を埋める堆積物の中に地下水が流れている場合もあります。
つまり、地下水を考えるときには「何の岩石か」だけでは足りません。
どこに割れ目があるか、雨水がどこから入るか、水を通しにくい層がどこにあるか。 それらの組み合わせが、水の集まり方を決めます。
2. では、向井酒造の「200m」は何を意味するのか
200mという深さが正確なら、浅い井戸とは異なる地下水の状態を探っている可能性があります。ただし、深い井戸だから必ず水量が多い、あるいは水質がよいというわけではありません。
考えられるのは、例えば次のようなケースです。
-
深部の岩盤の割れ目に地下水が流れている。
-
岩盤の中に、比較的水を通しやすい破砕帯がある。
-
地域の地層構造に沿って地下水が集まる場所を掘り当てている。
-
複数の地層や岩盤の割れ目から水を得ている。
これらは一般的な可能性であり、向井酒造の井戸が実際にどれに当たるかは、井戸の記録を見ないと分かりません。
また、伊根町周辺の地質は一様ではありません。京都府の地質目録には、伊根町周辺の地層として新第三紀の伊根層群・与謝層群・北但層群などが記載され、半島北部には安山岩などの火成岩も分布しています。したがって、「舟屋の里は火成岩だから」と、酒蔵の井戸の地質まで一括して決めつけないことが大切です。
3. 海のすぐそばで、酒造りに使える水を確保する難しさ
ここで、もう一つ面白い問題が出てきます。
向井酒造は、公式サイトでも「海に一番近い酒蔵」と紹介されています。
海に近い場所で地下水をくみ上げる場合、井戸の深さや地層の状態によっては、海水の影響を受ける可能性もあります。
ただし、海の近くの井戸が必ず塩水になるわけではありません。地下水の水位や流れ、地層の透水性、井戸の構造などによって条件は異なります。
酒造りでは、水が出るだけでも十分ではありません。水に含まれるカルシウム、マグネシウムなどのミネラルや、塩化物イオンなどの成分が、醸造過程や酒質に影響します。日本地質学会の研究発表でも、仕込み水の水質と地質、地下水の流動、清酒の醸造特性の関係が検討されています。
つまり、向井酒造の水を考えるなら、
-
どの地層・岩盤から水を得ているのか
-
どれほどの水量を安定して確保できるのか
-
水質はどのような特徴を持つのか
-
その水が酒造りにどう生かされているのか
という四つの問いが出てきます。
なお、今回調べた公開情報からは、向井酒造の井戸が約200mであることや、その井戸の地質・水質の詳細までは確認できませんでした。
4. ツアーで使うなら、こんな問いかけはいかがでしょう
「伊根は、海と山に挟まれた、平地の少ない土地です。
山から流れ出す大きな川が、町の中をゆったり流れているわけでもありません。
では、ここで暮らす人たちは、毎日の水をどう確保してきたのでしょう。
そして、酒造りには大量の水が必要です。海のすぐそばにある向井酒造は、どこから水を得ているのでしょうか。
岩盤は、どこでも水を通すわけではありません。でも、岩の割れ目や地層の中には、水の通り道ができることがあります。
見えている山の形だけでは、地下の水の流れまでは分かりません。
この土地の酒を味わうとき、その酒を生み出した水と、さらにその水を育んだ山の地質まで想像してみる。
そうすると、伊根の酒が、少し違って見えてきませんか。」
ここで断定を避けているのは、むしろ科学的な面白さを残すためです。実際の水源が確認できれば、さらに一歩踏み込んで話せます。
安田さん、もし向井酒造で「200mのボーリング」という話を直接聞かれたのであれば、次に尋ねたいのは、「どんな岩盤に当たり、どんな水が出たのですか?」 ということです。
その答えが分かれば、伊根の地質、地下水、酒造りを一本につなぐ、非常に具体的な「丹後の地球の物語」になります。
おお、安田さん! ここで、野室へ向かう道の崖に露出する地層と、向井酒造の地下200mの水が、一本の地球の物語になってきましたね!(^.^)
地上には、ゆがんだ地層。地下には、酒を生む水。どちらも、私たちの目には見えない大地の歴史を読み解く手掛かりです。
1. 丹後半島は、大地が動いてきた場所
若狭湾や丹後半島の地形を考えるとき、いくつもの時間軸を重ねて見る必要があります。
-
日本海が生まれた時代:大陸から日本列島が分かれていく過程で、地殻が引き伸ばされ、沈降し、火山活動も起こりました。
-
その後の地殻変動:断層運動などによって地層や岩盤が変形し、場所によっては隆起・沈降が起こりました。
-
現在の地形ができる過程:雨や川、波、風化が岩盤を削り、谷や湾、海岸を形づくってきました。
ただし、若狭湾を「現在のプレート運動だけでできた」と説明するのは単純化しすぎです。日本海の形成に伴う古い地殻変動と、その後の断層活動、長い侵食の歴史が重なっています。
2. その地質と、地下200mの水はどうつながる?
ここが今回の探究の面白いところです。
① 雨が山に降る
② 水が土や岩盤の割れ目に浸透する
③ 断層や破砕帯などが、水の通り道になる場合がある
④ 地下水が集まる場所を井戸で捉える
断層や岩盤の割れ目は、地下水の通り道になることがあります。一方、断層の内部に粘土などができて、水を通しにくくなる場合もあります。つまり、断層があれば必ず水が出るわけではありません。
また、地下200mという深さだけから、向井酒造の水が断層由来なのか、どの山から来るのかまでは分かりません。井戸の掘削記録や地質柱状図があれば、かなり具体的に検討できます。
3. 野室へ向かう崖の露頭は、最高の教材になる
安田さんが実際に見つけておられる、地層のゆがみ。
そこでは、こんな問いを投げかけられます。
「この地層は、最初からこんな形だったのでしょうか。それとも、地層ができたあとに、大地が動いたのでしょうか?」
地層の曲がりやずれが確認できれば、堆積したあとに変形した可能性を考えられます。ただし、露頭の形だけで断層の種類や形成時期まで決めるには、走向・傾斜や周辺の地質との照合が必要です。
そして、次の問いへ。
「この大地に降った雨は、どこへ行くのでしょう。田んぼに湧く水と、酒蔵が使う地下水は、どんな地質条件に支えられているのでしょう?」
ここで、露頭と湧水と酒蔵がつながります。
4. ツアーの語りにするなら
「道の脇の崖を見てください。地層が曲がったり、ゆがんだりしています。
私たちが立っているこの大地は、初めから今の姿だったわけではありません。海が生まれ、大地が動き、岩ができ、削られ、谷が刻まれてきました。
そして、そこに降った雨は、地表を流れるだけではありません。地下へしみ込み、土や岩盤の中を通り、どこかで湧き出します。
田んぼを潤し、生きものを育て、ときには酒造りを支える。
地上の地層と、地下の水。一見別々に見えるものが、実は同じ大地の物語の一部なのかもしれません。」
安田さんのSSHの視点が、ここで生きますね。
地層は大地の記憶。湧水は大地の働き。そして酒は、その水と人の営みが出会ったところに生まれる。
天橋立を生んだ大地を知る旅が、伊根の酒蔵の水にまでつながっていく。これこそ、点を線にして、線を面へ広げていく面白さだと思います。
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