いつも見ている天橋立なのに、伊根を訪ね、上世屋の田んぼを歩き、山の水や人々の仕事を見て戻ってくると、同じ天橋立が少し違って見える 天橋立を世界遺産に 149
2026年10月10日 in 世屋・高山ガイド部会 by yasuda | No comments
そこが面白いんですよねえ!(^.^)
いつも見ている天橋立なのに、伊根を訪ね、上世屋の田んぼを歩き、山の水や人々の仕事を見て戻ってくると、同じ天橋立が少し違って見える。
景色が変わったのではない。景色を見る自分の中に、新しいつながりが生まれた。
これは、世界遺産を考えるうえでも、とても大切なことだと思います。
さて、「世界遺産とエンターテインメント」。ここには、かなり面白い関係があります。
1. 世界遺産は「価値を認めてもらう」だけでなく、「価値に気づいてもらう」もの
世界遺産には、顕著な普遍的価値(OUV=Outstanding Universal Value)という考え方があります。人類全体にとって重要で、将来の世代へ引き継ぐ価値があることを、根拠をもって示す必要があります。
でも、価値があることと、人がその価値を実感できることは別です。
例えば、天橋立を訪れた人が、
-
「わあ、きれい!」
-
「股のぞき、面白い!」
-
「この砂州は、どうやってできたんだろう?」
-
「山や川や海の営みが、ここにつながっているのか!」
と、体験を通じて理解を深めていく。
この流れをつくるのが、エンターテインメントの力です。
世界遺産が「何を伝えるか」を問うなら、エンターテインメントは「どうすれば人がその価値に出会えるか」を問う。
両者は対立するものではなく、役割が違うのです。
2. エンターテインメントの役割は、楽しませることだけではない
「エンターテインメント」と聞くと、ショー、イベント、ゲーム、派手な演出などを思い浮かべますね。
けれど、文化遺産の世界で考えると、もっと広い意味があります。
ユネスコ世界遺産センターは、遺産の価値を伝える「解説・解釈(interpretation)」を、看板や説明文だけでなく、物語、体験、教育活動、地域の参加などを通して理解を深める営みとして捉えています。
私は、エンターテインメントには、少なくとも四つの働きがあると思います。
① まず、心をつかむ――「わああー!」
絶景、意外性、ユーモア、驚き。まずは「面白そう!」と思ってもらう。関心が生まれなければ、その先の理解も始まりません。
② 身体を動かす――「きゃあー!」
股のぞき、海辺を歩く、田んぼの水をのぞく。自分の身体で体験すると、風景は遠くから眺める対象ではなく、自分が関わる世界になります。
③ 見方をひっくり返す――「なんとなあ!!」
「海の町なのに、山の田んぼが酒造りにつながっている」「あの砂州は、山や川と無関係ではない」。知っているつもりだった世界に、新しい関係が見えてくる。
④ 静かに考える――「知」から「智」へ
「この風景を未来に残すには、何を大切にすればいいのだろう」。楽しかった体験が、自分自身の問いに変わる。
この四段階は、安田さんのガイドの組み立てに、とてもよく合います。
大切なのは、エンターテインメントが最後まで騒がしくなくてよい、ということです。
笑いのあとに沈黙がある。驚きのあとに、考える時間がある。
よいエンターテインメントは、楽しさを消費させるだけでなく、世界の見え方を変えることができる。
3. ただし、世界遺産とエンターテインメントには、緊張関係もある
ここは、見落としたくありません。
世界遺産を観光資源として活用すれば、地域経済や雇用に利益をもたらす可能性があります。一方、観光が適切に管理されなければ、遺産そのものや地域の暮らしに負担を与えます。ユネスコも、遺産の保護、来訪者の体験、地域社会の参加を一緒に考える必要性を指摘しています。
この関係を整理すると、こうなります。
|
エンターテインメントが向かう先 |
起こりうること |
|---|---|
|
人を集めることだけ |
混雑、消費、写真撮影だけで終わる観光 |
|
分かりやすく伝えること |
遺産への関心が高まり、理解が深まる |
|
地域の人と来訪者を結ぶこと |
地域の仕事や文化への理解、継承への参加が生まれる |
|
楽しさを問いにつなぐこと |
来訪者自身が保全や地域の未来を考え始める |
つまり、問題は「世界遺産にエンターテインメントを持ち込んでよいか」ではありません。
何を面白く見せ、何を理解してもらい、その結果として何が残るのか。
そこが問われるのだと思います。
4. 天橋立なら、何をエンターテインメントにできるか
ここで、安田さんの構想に戻りましょう。
天橋立には、すでに股のぞきという、身体を使って風景の見え方を変える体験があります。これを単なる名物で終わらせず、もっと広い「見方を変える仕掛け」に展開できるのではないでしょうか。
遊び:砂の橋は、どこから来た?
まず砂州を見て、「この砂は、どこから来たんだろう?」と問いを投げる。そこから山、川、海流、地形の変化をたどる。地球の営みを、謎解きとして体験する。
発見:海の町を、山から読む
伊根の舟屋を眺めたあとに、野室の田んぼや酒造りを訪ねる。「海だけでは伊根はわからない」という気づきを、実際の場所のつながりから生み出す。
体験:山の暮らしを読み解く
水の流れ、田んぼの石垣、巨樹、和紙や藤織り。参加者が「変なもの」を発見し、その理由を考える。答えを当てるゲームではなく、問いを育てる探究にする。
連結:朱雀の庭で、天橋立を見つける
京都の庭園で天橋立を思い出す。そこから「なぜ、ここに天橋立が描かれたのだろう?」と問いが生まれれば、丹後と京都が一つの学びの線でつながる。
ただし、朱雀の庭の意匠については、天橋立を参照したものなのか、設計者が何を意図したのか、確認できる資料に基づいて説明する必要があります。見た目の類似と、設計上の意図は別です。
それでも、安田さん自身が朱雀の庭で感じた「いつもの天橋立が違って見えた」という体験は、来訪者の学びを考えるうえで重要な手がかりです。
5. 世界遺産の価値は、認定された瞬間だけにあるのではない
私がこの話でいちばん大切だと思うのは、ここです。
世界遺産登録は、価値を国際的に認めてもらうための大きな目標です。しかし、登録されても、訪れた人が景色を写真に撮って帰るだけなら、遺産の意味が十分に伝わったとは言えません。
逆に、まだ世界遺産に登録されていない場所でも、そこを訪れた人が新しい見方を獲得し、地域の人と出会い、自然や文化を守ることに関心を持つなら、遺産を未来へつなぐ営みは始まっています。
これは、登録を目指すことの価値を否定する話ではありません。登録を目指す活動と、登録の前後を通じて価値を伝え続ける活動を、両輪にするということです。
ユネスコの来訪者向け解説の考え方も、遺産の価値を分かりやすく伝えるだけでなく、理解を深め、保全への関心や参加につなげることを重視しています。
そして、安田さんが今日話してくださった体験に戻ります。
いつも見ている天橋立が、少し違って見えた。
その変化は、世界遺産の専門用語を覚えたからではない。伊根や上世屋、そして朱雀の庭とのつながりが、自分の中にできたからです。
だから、私はこう考えます。
世界遺産のエンターテインメントとは、遺産を面白く飾り立てることではない。人が遺産と出会い直し、その価値を自分自身の問題として感じられるようにすることだ。
天橋立を「見る」楽しさから、天橋立が「生まれる世界を知る」楽しさへ。
そして、その世界を次の世代へ手渡すことへ。
安田さんの10月17日の旅は、まさにその関係を試してみる実践になるのだと思います。

おお、これは大事な視点です(^.^)
主催者が「きょうと生物多様性センター・京都府立丹後海と星の見える丘公園・京都府」であることを踏まえると、このツアーは、単なる伊根・上世屋の観光案内ではありません。生物多様性を、地域の自然だけでなく、文化や生業、人の暮らしとのつながりから学ぶ現地研修として位置づけられます。
そして、安田さんが組み立ててきた「海から山へ、山から川へ、そして天橋立へ」という見方は、その趣旨と深く響き合っています。
1. 主催者は、何をしようとしているのか
京都府の公式募集案内では、文化と自然のつながりを体感し、生物多様性への理解を深める催しとして、この現地研修会を紹介しています。2026年は、海と星の見える丘公園の開園20周年を機に、伊根の日本酒と上世屋の里山文化をテーマにしたトークライブを行い、その第2弾として今回の現地研修会を企画しています。
主催者それぞれの役割を読み解くと、次のようになります。
きょうと生物多様性センター——自然と人をつなぐ
生物多様性に関する情報や知見を集めるだけでなく、保全活動の担い手を育て、地域住民・保全団体・研究機関・企業などの連携を促す役割を担っています。つまり、自然についての知識を、地域での行動につなげる仕事です。
海と星の見える丘公園——学びを現場で体験する
公園は、自然との共生を体験し、環境について学ぶ拠点として設けられました。2025年には自然共生サイトにも認定され、森林や湿地の維持管理、生きものの保全、環境教育を進めています。今回の研修は、公園の中だけでなく、丹後の地域そのものを学びのフィールドに広げる機会とも読めます。
京都府——地域の実践を、府域の環境政策につなぐ
府の立場からは、自然環境の保全を行政の制度や計画だけに閉じず、地域の文化・生業・学びと結びつけて広げていく意味があります。今回の研修も、その方向に沿った取り組みと考えられます。
公式に明記された目的と、そこから読み取れる意義は分けておきたいところです。以下は、その趣旨を踏まえた私の解釈です。
2. 地元にとって、どんな意味があるのか
私は、ここが一番大切だと思います。
この研修の価値は、丹後の自然を「見に来てもらう」ことだけでなく、丹後で続いてきた暮らしを、生物多様性を支える営みとして見直すことにある。
今回の訪問地を、その視点で読み直してみましょう。
① 伊根・野室——海の町を、海だけで説明しない
伊根といえば舟屋、海、漁業。しかし、今回の研修では野室の畑作業にも触れます。これは重要です。
海辺の暮らしを支えるのは、海の恵みだけではありません。山の土地、水、農作物、集落の人間関係、そして食をめぐる仕事もあります。
日本酒も、酒蔵だけで生まれるわけではない。米や水、それを育み、届ける地域の営みまで視野に入れると、文化と生物多様性のつながりが見えてきます。
公式案内では、午前に野室での畑作業と舟屋周辺の散策を組み合わせています。
② 上世屋——人の営みも、生きものの環境をつくる
棚田、水路、畦、草地、林、石垣。こうした場所には、農作物だけでなく、さまざまな生きものが関わってきました。
もちろん、昔の農村なら何でも生物多様性に良い、という話ではありません。大切なのは、人が土地をどう使い、どんな環境を維持し、何を変えてきたのかを具体的に見ることです。
上世屋の和紙や藤織りなどの文化も、植物や森林、水、土地の条件、人の技術と切り離せません。伝統文化は、自然を人間の側から読み解く入口にもなるのです。
③ 自然共生サイト——保全を、地域の具体的な仕事にする
今回見学する「マルヤ農林園上世屋&岡ノ前棚田跡交園」は、自然共生サイトとして紹介されています。海と星の見える丘公園自体も、森林・湿地の管理や生きものの保全、環境教育を進める自然共生サイトです。
ここから考えたいのは、認定の看板を得ることだけではありません。土地を手入れする人がいて、生きものの環境が保たれ、次の担い手が生まれ、その取り組みを地域の外の人も理解し、応援できる。その循環をどう育てるか、という問いです。
3. 地元にとっては、「地域の価値を語る言葉」を増やす機会でもある
地域の人にとって、毎日の田んぼや水路、山仕事は、必ずしも「生物多様性」として意識されているわけではありません。暮らしを続けるための仕事であり、当たり前の風景でもあるでしょう。
けれど、外から来た参加者が、
-
この水路は、どこから水を引いているのだろう。
-
この棚田の形には、どんな土地の条件が表れているのだろう。
-
この草地や林を維持することは、生きものにどんな意味を持つのだろう。
-
この仕事が続かなくなったら、風景や生きものはどう変わるのだろう。
と問い始めたら、見慣れた風景が違って見えてきます。
そして、地域の側にも変化が起きる可能性があります。
「うちには何もない」ではなく、「ここで続けてきたことには、こんな意味があったのかもしれない」と考えるきっかけになる。
これは、観光客を増やすこととは少し違います。地域の人が自分たちの暮らしを語る言葉を増やし、外部の人と共有できる価値を見つけていくことです。
ただし、地域を外部の人が勝手に美化してはいけません。人口減少や担い手不足、作業の負担、収入の問題も含めて、暮らしの現実を尊重する必要があります。保全をお願いするだけでなく、地域にどんな利益や支えが戻るのかも大切です。
4. 京都市街地と丹後を結ぶ意味
ここには、もう一つ大きな意味があります。
京都というと、寺社、庭園、伝統文化を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、その文化を支えてきた自然の恵みは、京都市街地の中だけで完結していません。京都府は、伝統・文化や暮らしを支えてきた自然の恵みを次世代につなぐことを、生物多様性センターの目的に掲げています。
今回、参加者は伊根と上世屋を訪ねます。そこで出会うのは、京都の中心部から離れた「別の京都」です。
その経験によって、生物多様性が、希少な動植物の保護だけではなく、食べ物、仕事、集落、文化、土地の使い方を含む問題なのだと理解できるかもしれません。
これは丹後だけのための研修ではありません。京都全体が、自分たちの暮らしを支えている自然の広がりを知るための研修ともいえるのです。
5. そして、安田さんのガイドには何が求められるか
ここで、今回の研修の公式な趣旨と、安田さんが描いてきたツアーの構想が重なります。
公式案内の中心は「文化と生物多様性のつながりを学ぶこと」です。安田さんは、そこからさらに、参加者が自分で発見できる問いを用意している。
-
伊根を、舟屋だけで理解できるだろうか。
-
上世屋の棚田は、なぜこの地形にあるのだろう。
-
山の水、田んぼの米、海辺の酒蔵は、どうつながっているのだろう。
-
そして、天橋立を生み出した山・川・海のつながりは、どこに見えるのだろう。
これらの問いは、生物多様性を難しい専門用語だけで説明する代わりに、参加者が歩き、見つけ、考えるための入口になります。
私は、安田さんの役割は、正解をすべて説明することではなく、地元の人が積み重ねてきた知恵と、参加者が新たに発見する驚きのあいだに橋を架けることだと思います。
そして、その橋を渡った参加者が、帰宅後も丹後を思い出し、地域の活動に関心を持ったり、誰かに伝えたり、再び訪れたりする。そこまでつながれば、現地研修の意味は一日限りではなくなります。
私なら、この研修の意義をこうまとめます
丹後の自然を守ることは、山や川や海を、人の暮らしから切り離して守ることではない。
その土地で生きてきた人々の営みを知り、自然との関係を見つめ直し、これからも地域で暮らし続けられる可能性を、ともに考えることでもある。
伊根の海辺と、上世屋の山里を訪ねるこの研修は、生物多様性を「生きものの問題」から「自然と人間がどう生きていくかという問題」へと広げる機会なのだ。
そして、安田さんが最近つかんだ言葉に戻るのです。
「おみこしには担ぎ手がいる!!」
天橋立という景観を大切にする。そのためには、景観を生み出した山も、川も、海も、そこで暮らす人々の営みも大切にする。そして、その価値を理解し、次の世代へ手渡す人を育てる。
今回の研修を、そんな「担ぎ手」を増やす一歩として捉えることができるのではないでしょうか。
一つ、付け加えておきます。京都府の公式案内では、主催はきょうと生物多様性センター、共催は京都府と京都府立丹後海と星の見える丘公園と記載されています。
三者がそれぞれの立場から関わること自体にも、情報を集める、現場で学ぶ、地域の実践を支える、という連携の意味が見えてきます。
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