宮津エコツアー · 世界遺産にするべきなのは、「スター」ではなく「スターを生み出している仕組み」かもしれない  天の橋立を世界遺産に 84

世界遺産にするべきなのは、「スター」ではなく「スターを生み出している仕組み」かもしれない  天の橋立を世界遺産に 84

【ありがとう、世界遺産屋久島の場合、登録を決定づけたのは、屋久杉だろうとおもいますが、そうではなく、宮之浦岳に一筋残る植生の垂直分布だったというエピソード、解説くださいな!、】
淀川登山口から宮之浦岳と高盤岳(トーフ岩)を日帰り縦走自力登山【屋久島】

はい。これは**天橋立の話を考えるうえでも、とても重要な「世界遺産の見方」**を教えてくれる事例です。

ただ、まず一つ、事実関係を丁寧に直しておきたいです。

「屋久島は屋久杉ではなく、宮之浦岳に一筋残った植生の垂直分布が決定打だった」という話は、そのまま史実として言い切るのは少し危険です。

実際の推薦・評価を見ると、屋久杉は明確に重要でした。一方で、世界遺産としての価値を決定的に強くしたのは、屋久杉という一つのスターではなく、海岸から宮之浦岳などの山頂まで、異なる植生帯が連続して残る「一つの生態系」そのものだった、と理解するのが正確です。環境省も、屋久島の推薦理由として「顕著な植生の垂直分布」とヤクスギなどの特殊な森林植生を挙げています。

そして、ここがものすごく面白い。

「屋久杉」ではなく「屋久島」

たとえば、

「屋久島には樹齢数千年の巨大な屋久杉があります」

だけなら、これはすごい森の話です。

ところが、

海岸の亜熱帯的植生
↓
暖温帯の照葉樹林
↓
温帯の森林
↓
山頂部のヤクザサ・シャクナゲ等
↓
高層湿原・冷温帯的環境

という連続性を、一つの地域の中で見る。

すると、

「一本の巨木」から「地球上の生命環境の変化を縦に見る場所」

へ、価値が跳ね上がる。

UNESCOの現在のOUV(顕著な普遍的価値)の説明も、まさにこの点を非常に重視しています。屋久島は、海岸から中央の高峰まで連続する植生の垂直分布を持つ独特な島嶼生態系であり、生物地理学、植生遷移、水文学などの研究上も重要だとされています。


そして「一筋」という表現が面白い

おそらく安田さんが聞かれたエピソードは、

「山の中に、海岸から山頂まで自然がつながって残っている場所がある」

ということの重要性を強調した話なのだと思います。

実際、IUCNの1993年の評価でも、海岸から山頂近くまでを含むこと、そして暖温帯の古い森林が標高に沿って連続することが評価されています。さらに、登録範囲が異なる生命帯を一つの連続したまとまりとして含んでいることが完全性(integrity)の重要な条件になっています。

つまり、

「珍しいものが一個ある」より、
「珍しいものが、自然の仕組みとしてつながって残っている」

ほうが、世界遺産として強い。

ここが非常に重要です。

宮津高校フィールド探究部


(↑ 世屋川 ミョウガ谷の探究)

そして……これ、世屋川にそっくりなんです

安田さんが先ほどおっしゃった、

世屋川は標高700mから海抜0mまで、7km※足らずで下る

という話。

これ、まさに「屋久島型の見方」を天橋立・丹後で考える入口になり得ます。

例えば、

世屋高原
↓
冷温帯的な山地植生
↓
ブナ・ミズナラなど
↓
カツラ・サワグルミ・トチノキなどの渓畔林
↓
里山
↓
農地・湿地
↓
暖温帯の植生
↓
世屋川
↓
阿蘇海
↓
天橋立
↓
日本海

となる。

もちろん、屋久島と同じ生態系だと言うことはできません。

でも、

「短い距離の中に、標高・気候・水・地形・植生・人間生活の変化が凝縮している」

という見方ができます。


だから「屋久杉を探す」のではなく……

天橋立で世界遺産級の価値を探すとき、

「何か一個、ものすごいものはないか?」

と探す必要はないのかもしれません。

むしろ、

「この地域を縦に歩いたとき、何が連続して見えてくるのか?」

を見る。

これまで安田さんと発見してきたものを並べると、

山

↓

森林

↓

湿地

↓

地すべり

↓

農地

↓

集落

↓

世屋川

↓

阿蘇海

↓

天橋立

↓

宮津湾・日本海

です。

これは単なる「観光ルート」ではありません。

地球の仕組みを歩いて読める断面図です。


そして、ここで高校生の

「飽くなき探究心」

が効いてくるんですよね。

屋久島を「屋久杉を見るところ」で終わらせず、

「なぜこの島には、これほど多様な植生が一つながりで残っているのか?」

と問い始めたとき、世界遺産の物語になった。

同じように丹後でも、

「天橋立、きれい!」

から始まって、

「この砂はどこから来た?」
「世屋川は何を運んでいる?」
「世屋の森はどんな森?」
「なぜここに湿地がある?」
「なぜ人はこの地すべり地に住んだ?」
「川は人間にどう使われた?」
「海と内陸はどうつながった?」

と問いをつないでいく。

最後に、

「ああ、天橋立だけを見ていたら、この場所の本当の価値は見えなかったんだ」

となる。

ミョウガ谷の大サワグルミ

(↑

幹周り 主幹348cm、株立ち8本の合計1,044cm
樹高 20m(目測)
樹齢 不明
保護指定 丹後上世屋内山京都府自然環境保全地域
所在地 京都府宮津市上世屋(ミョウガ谷)
交通 登山道や案内板等はないため、ガイドの案内が必要(宮津世屋エコツーリズムガイドの会へ問い合わせ https://miyazu-et.com)
著者 多々納 智(京都府立宮津高等学校理科教諭/フィールド探究部顧問)

丹後半島最高峰の高山(702m)を水源とする世屋川。上世屋の美しい棚田を潤し、下世屋の龍渓を刻み、穏やかな田園風景が広がる日置の扇状地を作り、若狭湾へと流れ込みます。一帯から供給される大量の土砂は日本三景「天橋立」を形成し、豊富な栄養塩類が若狭湾の豊かな生態系を支えます。その源流域にあたるミョウガ谷は半島本来の植生を色濃く残す水源林として、丹後上世屋内山京都府自然環境保全地域に指定されています。ここへのアクセスは標高約500mを縦走する丹後縦貫林道。その道脇から沢へと降り、藪こぎをしながら高山へと続く渓流を上ると、15分ほどで整然と等間隔に並んだサワグルミの巨樹たちが出迎えてくれます。大規模な地滑りが起こる度に、真っ先に根付き森を再生するこの木の特徴をよく示す光景です。さらに上流へ向かうこと30分。最上流部に8本の株を天へと真っ直ぐに伸ばす大サワグルミが姿を現します。沢に張り出した根が、しっかりと大地を掴んでいます。森・里・海の豊かさ、その根源たる水源の守人です。
宮津市日置から世屋川沿いを遡り水源に至るルートは、人・自然のつながりを紡ぐ水に思いを馳せる旅路です。そのクライマックス、大サワグルミとの対峙は、若者の心にそのストーリーを強く焼き付けました。)

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これはまさに、今まで話してきた

「天橋立を入口にして、丹後全体の未来を考える」

の科学的な裏付けにもなります。

そして屋久島の事例から学べる一番大切なことは、私はこれだと思います。

世界遺産にするべきなのは、「スター」ではなく「スターを生み出している仕組み」かもしれない。

屋久杉を生み出した屋久島の垂直的な生態系。

そして、天橋立を生み出した山・川・海・砂・人の巨大なつながり。

……そう考えると、安田さんが探している「天橋立の残り20%」、また少し輪郭が出てきた感じがしますね。

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