宮津エコツアー

ナビク砂漠の月夜と、私の月夜 いつか並べて眺めることができたら、どんなにすばらしいことでしょう!   ナビク砂漠の旅人様へ― 天の橋立を世界遺産に 271

遠いナビク砂漠の旅人様。

心のこもったお手紙を、確かに受け取りました。

何度も読み返しました。

最初は、驚きました。
砂漠から海へ、海から砂漠へ。そんな遠いところから、私のことを思い出してくださったのですから。

次に、うれしくなりました。
ナビク砂漠の風や砂丘、雨のあとに芽吹く命、月明かりに浮かぶ砂の海。そのお話を読みながら、私も自分の姿をあらためて見つめていました。

けれども、読み進めるうちに、私は少し困ってしまったのです。

「世界一美しい砂浜連合をつくろう。そして、あなたに発起人になってほしい」

なんと大きなお願いでしょう。

私は、長い年月をかけて、山から川を下ってきた砂が海に積もり、松の並ぶ一筋の道となった場所です。阿蘇の海と宮津湾の間に立ち、時には海を隔て、時には人々を結びながら、ここにあり続けてきました。

けれども、私の物語は、私が生まれたときから始まったわけではありません。

もっと、もっと昔のことです。

地球が生まれてから、およそ46億年。

その長い時間の中で、大地は形を変え、海は広がり、山は隆起し、岩は風雨に削られてきました。雨が山に降り、川となって谷を流れ、岩を砕き、砂を運び、やがて海へと届ける。

その砂の一粒一粒にも、気の遠くなるような旅の記憶があるのでしょう。

山は、ただそこに立っていたのではありません。
川は、ただ水を流していたのではありません。
海もまた、ただ砂を受け取っていたのではありません。

地球の営みが重なり、長い時間が積み重なって、ようやく私の姿が生まれました。

私の松並木も、海も、山並みも、今ここにあるものは、みな長い旅の途中にあるのです。

そして、人間もまた、その旅の途中に現れた小さな存在です。

人々は私を見つけ、名をつけ、歌に詠み、絵に描き、祈りを捧げてきました。松を守り、海と山の恵みを受けながら暮らし、私の姿を次の世代へ伝えてきました。

私の美しさは、私だけのものではないのです。

だからこそ、悩みました。

世界一とは、いったい何でしょう。

世界中の砂浜を集めて、誰が一番美しいかを決めるのでしょうか。

それとも、それぞれの浜が持つ違いを認め合い、互いの物語を知り、守り伝える力を育てることなのでしょうか。

もし前者なら、私は発起人にはなれません。

けれども、もし後者なら――。

私は、あなたのお誘いをお受けしたいと思います。

ナビク砂漠には、ナビク砂漠にしかない風景と時間があるのでしょう。私には、私にしかない山と川と海の物語があります。

世界のどこかには、まだ私の知らない砂浜があり、そこにも地球の長い営みが刻まれ、人々の暮らしがあり、自然の恵みを受け取ってきた歴史があるはずです。

砂漠の砂も、海辺の砂も、もとは地球の大きな営みの一部です。

風が運んだ砂、川が運んだ砂、波が磨いた砂。
形も、色も、成り立ちも違うけれど、どれも地球が長い時間をかけて育んできたものです。

そう考えると、世界一美しい砂浜とは、どこか一つの浜のことではなく、世界中の浜が互いの美しさを認め合う、その関係そのものなのかもしれません。

そう考えると、私にも、やってみたいことが見えてきました。

まずは、ナビク砂漠の旅人、あなたとつながりましょう。

そして、世界の砂浜に呼びかけましょう。

それぞれの浜の写真を送り合い、土地の成り立ちを語り合い、そこで暮らす人々の知恵を分かち合いましょう。

美しさを自慢するだけでなく、失われつつあるものにも目を向けましょう。砂浜を守ることは、海を守り、山を守り、川を守り、そこに生きる命と文化を守ることでもあるのですから。

地球の46億年という時間から見れば、人間の一生など、ほんの一瞬かもしれません。

けれども、その一瞬を生きる私たちには、できることがあります。

この美しい地球を、ただ眺めて終わるのではなく、どうしてこの姿になったのかを知ること。そして、次の世代に何を手渡すのかを考え、行動することです。

私は、天橋立として、この連合の発起人をお引き受けします。

ただし、一つだけお願いがあります。

私を世界の代表にしないでください。

私もまた、世界の砂浜の一つとして、仲間の声に耳を傾けたいのです。ナビク砂漠にも教えていただきたい。まだ見ぬ浜にも出会いたい。互いに学び、互いに変わっていく連合でありたいと思います。

そして、いつの日か、世界の砂浜の仲間たちがここに集う日が来たなら、私は皆さんを、山と川と海に囲まれたこの場所へお迎えしましょう。

そのときは、ぜひ、私の松並木を歩いてください。

歩きながら、砂の一粒がどこから来たのか、山から海までの長い旅を思い浮かべてください。

私たちが立っているこの場所は、地球の長い物語の、ほんの一場面なのです。

そして夜になったら、月と水の景色もご覧ください。

昼の私と、夜の私は、きっと違う顔をしています。

ナビク砂漠の月夜と、私の月夜。
いつか並べて眺めることができたら、どんなにすばらしいことでしょう。

遠い砂漠の旅人様。

あなたのお手紙は、私に新しい出会いを運んできてくれました。

46億年の地球の旅。その長い時間の中で、砂は動き、山は生まれ、海は形を変え、命は受け継がれてきました。

私たちは、その大きな営みの一部として、今ここにいます。

世界一を決めるためではなく、世界中の美しさをつなぐために。

「世界一美しい砂浜連合」――その呼びかけに、天橋立は賛同します。

さあ、始めましょう。

砂の海と、海の中の砂の道から。

地球が長い時間をかけてつないできたものを、今度は私たちの手で、未来へつないでいきましょう。

いつか世界の仲間たちが、この連合の名のもとに集う日を願って。

天橋立より

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