妙な質問どころか、これは面白い問いです!(^.^)
「天橋立が世界遺産になったら、誰が喜ぶか」ではなく、あえて 「陰で喜ぶのは、だれか、なにか」 と問う。ここに、表向きの祝賀や観光振興の話とは違う、構造を読む視点があります。
私なら、三つに分けて考えます。
-
表で喜ぶ人――登録を推進してきた人、観光事業者、行政、地元住民。
-
陰で喜ぶ人――登録によって、直接の主役ではないのに利益や新しい機会を得る人。
-
人ではないけれど、いちばん喜んでほしいもの――天橋立を生み出した山、川、海、そしてその土地で暮らしを続ける人々。
この三つは、必ずしも一致しません。世界遺産になって観光客が増えても、地域の暮らしや自然環境がよくなるとは限らない。反対に、登録をきっかけに、今まで光の当たらなかった地域や営みが見直されることもある。
そこを踏まえて、少し踏み込んでみます。
1. まず、陰で喜ぶのは「天橋立の外側にいる人たち」
① 天橋立を生み出したのに、天橋立の陰に隠れてきた地域
これは、伊根の舟屋、上世屋の棚田、加悦のちりめん街道、そして丹後の山や川です。
天橋立の世界遺産化が、単独の名所を顕彰する話にとどまらず、「この景観を生んだ世界」へ目を向ける契機になれば、これらの地域も自分たちの価値を語れるようになる。
いちばん大きな恩恵は、観光客が増えることよりも、地域の存在意義が見直されることかもしれません。
② 小さな地域で、営みを守り続けている人たち
漁師、農家、織物に携わる人、地域の文化を継承する人、ガイド、宿の主人。
世界遺産という看板は、これまで説明しにくかった仕事や暮らしに、新しい意味と評価を与える可能性があります。
ただし、恩恵が自動的に届くわけではありません。観光客が来ても、外部の事業者だけが利益を得るなら、地域の人は舞台装置にされてしまう。ユネスコも、地域住民が計画に参加し、地域に経済的な利益が届く仕組みを重視しています。
③ これまで別々に見られていたものを、つなごうとしてきた人たち
これは、安田さんが考えておられる「あいせよ天橋立丹後浦島ロード」のような構想に関わる人たちです。
天橋立の価値を証明する仕事と、丹後の自然・歴史・暮らしをつなぎ、未来へ引き継ぐ仕事。その二つが連動すれば、世界遺産運動の成果を地域づくりへ展開できる。
つまり、天橋立が世界遺産になることで、これまで「点」だった活動を「面」と「線」に変える機会が生まれます。
2. では、もっと「陰の陰」で喜ぶのは誰か?
ここからは少し、意地悪な分析です(笑)。
-
行政にとっては、地域の価値を国内外に発信する大きな看板になります。広域連携や保全施策を進める理由にもなるでしょう。ただし、看板を掲げることと、実際に管理できることは別です。
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観光業界にとっては、世界遺産ブランドが旅行商品をつくる材料になります。とくに、これまで知名度の低かった地域にとって、新しい入口になり得ます。
-
研究者や教育関係者にとっては、地形・文化景観・信仰・美意識を結びつけて考える場が広がります。
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地域の外にいる投資家や事業者にとっても、新しい商機になる可能性があります。これは地元にとってプラスにもマイナスにもなり得ます。
つまり、世界遺産化には、地域の人々が喜ぶ可能性と、地域の外側の人々が利益を得る可能性が同時にあります。
京都府はこれまで、天橋立を中心とする地域の世界遺産登録を目指し、宮津市・伊根町・与謝野町と調査研究を進めてきました。
だからこそ、登録を実現することだけでなく、登録後に誰が担い、誰が恩恵を受けるのかを、早い段階から問う意味があります。
3. そして、私がいちばん大切だと思う「なにか」
それは、丹後の自然と暮らしを、もう一度ひとつの世界として見直すことです。
天橋立は、砂が堆積してできた地形です。しかし、その成り立ちを考えれば、山から流れ出す土砂、川の流れ、海の動き、植生、人々の営みが見えてきます。
伊根の舟屋を見れば、海と暮らしの関係が見えてくる。上世屋の棚田を見れば、山の水と農業と集落の関係が見えてくる。加悦のちりめん街道を歩けば、自然の恵みだけでなく、人の技術や交易が地域を形づくったことが見えてくる。
天橋立が世界遺産になることで、こうした関係を一緒に語れるようになったなら、喜ぶのは人間だけではありません。自然を守る活動にも、次の世代へ地域の知恵を伝える教育にも、新しい意味が生まれます。
ただし、これは登録そのものがもたらす保証ではありません。そうなるように地域が仕組みをつくってこそ、実現する未来です。
4. ここで、安田さんの構想に引き寄せると……
私には、こんな構図が見えてきます。
天橋立の世界遺産化
世界に伝えるべき価値を明らかにする
あいせよ天橋立丹後浦島ロード
阿蘇海・伊根・世屋・与謝野をつなぐ
丹後の未来へ
自然を守り、暮らしを支え、担い手を育てる
世界遺産を目指す活動が「天橋立の価値を世界に伝える」ものだとすれば、ロード構想は「その価値を生み出した丹後という世界を、地域の未来につなぐ」ものです。
そして、もし両者が連動すれば、天橋立の世界遺産化を陰で喜ぶ人たちの中に、今まで自分たちは関係ないと思っていた山里の人や、地域を支える小さな活動の担い手も加わるかもしれません。
私の答えはこうです。
世界遺産になって喜ぶのは、天橋立の知名度が上がる人たちだけではない。
本当に喜んでほしいのは、天橋立を生み出したのに、その価値を十分に語られてこなかった丹後の山・川・海、そして、そこで暮らしを続けてきた人たちです。
もう一歩、意地悪に問い返すなら――
「世界遺産になったら誰が喜ぶか」ではなく、「世界遺産になったとき、誰が喜べる仕組みを、今からつくっておくか」。
これが、世界遺産を目指す会と「あいせよ天橋立丹後浦島ロード構想実行委員会」を並行して立ち上げる意味の、ひとつの核心ではないでしょうか。
これは、ぜひ聴きに行きたい講演ですね。しかも、先ほどの「世界遺産になったとき、誰が喜べる仕組みを、今からつくっておくか」という問いに、かなり深くつながる内容だと思います。
まず、今回の講演について、確認できたことがあります。
宮津市の公式告知によると、2026年11月28日の第2回市民講座は、今年度のテーマ「自然環境」のもとで開催されます。深町加津枝先生の講演は「天の橋立の景観と住民意識」。そして重要なのは、昨年度に実施したアンケート調査の結果をもとに、天橋立の景観に対する地元住民の意識を分析すると明記されていることです。
したがって、単に「天橋立は美しい」という講演ではなさそうです。住民は何を景観の価値と感じているのか。何を残したいのか。どのような変化を気にしているのか――そうした、景観を見ている人、景観とともに暮らす人の側から天橋立を捉え直す講演になると考えられます。
もちろん、アンケートの具体的な設問や結果は、まだ公表情報からは確認できません。以下は、告知内容と深町先生のこれまでの研究から見当をつけた予想です。
1. 講演の中心になりそうな四つの論点
① 住民は、天橋立のどこに価値を感じているのか
まず考えられるのは、白砂青松の砂州だけでなく、松並木、阿蘇海や宮津湾からの眺め、周辺の寺社や町並みなど、どの要素が評価されているかという分析です。
深町先生は以前にも、天橋立を対象に、地域住民がどのような視点から景観を見ているか、住民と観光客で評価がどう違うかを研究されています。過去の報告では、名所として知られる展望台からの眺めだけでなく、近くから見る景観や、住民が日常的に見ている景観にも価値があると指摘されていました。
今回は、こうした視点が新しいアンケートでどう表れているのか、注目です。
② 「美しい景観を守る」とは、具体的に何を守ることなのか
天橋立の松並木を例にすると、単純に松を増やせばよい、という話ではありません。松の生育環境、日照、広葉樹との関係、松枯れ、管理の担い手など、さまざまな要素が関わります。
以前の深町先生らの研究でも、松並木の保全、眺望点からの景観、屋外広告物、公共施設などが検討課題として扱われていました。
今回の講演でも、住民が残したいと考える景観と、実際に保全するうえで問題になっていることの関係が示される可能性があります。
③ 住民の意識は、一枚岩なのか
これが、私には特に重要に思えます。
住民といっても、住んでいる場所、年代、天橋立との関わり、仕事、日常的に目にする景観は異なります。
たとえば、観光に携わる人、松並木の保全に関わる人、毎日その近くを通る人では、同じ景観を見ても、気になるところが違うかもしれません。
アンケートでそうした違いが分析されていれば、「地元住民は天橋立を大切にしている」という一言では見えない、価値観の幅や共通点が見えてくるでしょう。
ただし、今回の調査でどの属性を比較したかは、現時点では確認できていません。
④ その意識を、どう保全や地域づくりにつなげるのか
アンケートは、住民の意識を測って終わりではありません。
調査結果から、どこを優先して守るのか、誰が管理に関わるのか、住民・行政・観光事業者などがどう協力するのか、といった課題が浮かび上がる可能性があります。
深町先生の過去の研究でも、天橋立の景観を継承するには、行政だけでなく地域住民や観光客、NPOなどが連携し、継続的に管理する仕組みが重要だと論じられています。
つまり、景観の「評価」から、景観を支える「仕組み」へ。この流れが講演の結びになるかもしれません。
2. 深町先生の研究姿勢から見えること
深町先生の京都大学の研究者紹介では、研究テーマとして「里山などにおける生物文化多様性、文化的景観の保全・活用」が挙げられています。里山管理、森林文化、景観生態学なども専門領域です。
この研究の視点を天橋立に重ねると、景観は単なる視覚的な美しさではありません。
人が自然を利用し、手入れし、暮らしを営み、価値を見いだしてきた結果として成立するものでもあります。
たとえば、上世屋の棚田を考えてみてください。棚田の景観を守ることは、写真に映る田んぼを残すだけではない。水路を維持し、田を耕す人がいて、農業が続く条件を守ることでもあります。
天橋立の松並木も同じように、景観を守ることと、それを支える自然の仕組みや人の営みを守ることは、切り離せないのではないでしょうか。
ただし、今回の講演はあくまで天橋立の景観と住民意識についてです。丹後全域の地域づくりまで踏み込むかどうかは、講演を聴いてみないと分かりません。
3. 安田さんなら、ここを聴くと面白いと思います
私は、次の三つを頭の片隅に置いて聴くことをおすすめします。
問い 1
住民は、天橋立という「名所」を大切にしているのか。それとも、天橋立とともにある「暮らしの世界」を大切にしているのか。
アンケートの設問や回答結果が、どこまでこの違いを捉えているか。
問い 2
住民が残したいと思う景観と、実際にそれを支えている人の営みは、結びついているか。
美しい景観を残したいという意識があっても、管理する人や資金、日常の手入れが不足していたらどうなるか。
問い 3
世界遺産を目指す活動は、住民が景観の価値を自分の言葉で語り、守る側に参加する機会になっているか。
世界遺産という看板が、住民の意識や参加をどう変え得るのか。あるいは、まだ何が足りないのか。
最後の問いは、今回の講演の調査結果そのものが直接答えてくれるとは限りません。しかし、世界遺産を目指す運動の次の段階を考えるうえで、大切な問いになるはずです。
4. そして、今回の講演をロード構想へつなぐなら
ここは、安田さんがこれまで考えてこられたことと、きれいにつながります。
天橋立の景観を大切に思う住民がいる。その思いを調査で明らかにする。では、その思いを、天橋立の周辺にある山、川、海、集落、生業の継承へどう広げていくのか。
「あいせよ天橋立丹後浦島ロード」は、その問いに対する一つの実践案になり得ます。
ただし、住民が天橋立を大切に思っていることと、伊根・世屋・与謝野を結ぶ構想に賛同することは、同じではありません。 だからこそ、ロード構想も上から理念を掲げるのではなく、それぞれの地域が何を大切にしているのか、何を望んでいるのかを聴くところから始める必要があると思います。
今回の講演で、ぜひ確かめたいのは、住民意識の「高さ」だけではありません。
誰が、何を大切に思い、何を守るためなら動こうと思えるのか。
そこが見えてくれば、先ほどの問い――「世界遺産になったとき、誰が喜べる仕組みを、今からつくっておくか」――にも、一歩近づけるのではないでしょうか。
講演を聴く前から結論を決める必要はありません。むしろ、アンケートの数字を見ながら「この数字の向こうに、どんな暮らしや思いがあるのだろう」と考える。安田さんの言葉でいえば、まさに 「掘る・繋ぐ・問い返す」 で聴く市民講座になりそうです。
無理筋どころか、私は今回の市民講座を聴くうえで、かなり本質的な問いだと思います(^.^)
「日本人とは何か」と問われれば、国籍なのか、文化なのか、言語なのか、歴史的な自己認識なのか、と議論が広がります。
では、「天橋立の住民とは誰か」。
こちらも、住所だけで簡単に定義できるように見えて、実はそうではありません。
天橋立の近くに住む人、天橋立を日常的に眺める人、松並木の保全に携わる人、観光業で生計を立てる人、先祖代々この土地に暮らしてきた人、進学や就職で地域を離れた人。それぞれ、天橋立との関係は違います。
そして、ここが大切です。
「住民とは誰か」という問いと、「誰の意見を、何のために聴くのか」という問いは、別の問題なのです。
深町先生が今回、どのように「住民」を定義し、分析対象にされたのか。公表されている講演告知だけでは、調査対象の範囲や設問の詳細までは確認できません。ですから、以下では、先生の研究分野と今回の講演テーマから考えられる説明を予想し、その妥当性を検討してみます。
1. 深町先生は「住民」をどう説明されるのか――私の予想
私は、先生が「住民とは何か」という定義論を正面から展開されるより、まず調査上の対象として住民を設定し、その回答から、住民と景観の関係を分析される可能性が高いと考えます。
その理由は、先生の過去の研究にあります。
2004年の論文「天橋立における歴史的景観の変遷と地域住民の景観評価に関する研究」では、地域住民は、日常生活のなかで身近に接する景観に強い愛着をもち、景色だけでなく環境の質にも関心を寄せている、と報告されています。また、居住地区によって望ましい景観や感じ方に違いがあることも指摘されています。
つまり、先生の研究では、すでに「住民」は一つの均質な集団ではありません。
ここから今回の講演について、三つの可能性を考えます。
|
予想される説明 |
妥当性についての私の見解 |
|---|---|
|
調査対象地域に住んでいる人を「住民」とする |
アンケート調査の方法として妥当。ただし、なぜその地域を対象にしたかが重要 |
|
年齢や居住地区などによる意識の違いを分析する |
妥当。集団の平均だけでは見えない違いを捉えられる |
|
住民と天橋立との日常的な関わりに注目する |
景観研究として非常に重要。ただし、関わりの深さを住所だけで測ることはできない |
このうち三つ目は、特に注目したいところです。
ただし、今回のアンケートで実際にどの属性を尋ね、どのように分類したのかは未確認です。これらは、あくまで研究の方向性からの予想です。
2. 「住民」という言葉には、少なくとも四つの意味がある
ここからは、私自身の分析です。深町先生がこの分類を使われるという意味ではありません。
① 制度上の住民
ある地域に住所を置いている人。
アンケート対象者を選ぶ際には明確で扱いやすい定義です。しかし、住所があることと、その土地の景観をよく知っていることは同じではありません。
② 生活者としての住民
通勤・通学、買い物、散歩、農業、漁業などを通して、日常的に地域と関わる人。
景観が単なる眺めではなく、生活の一部になっている人たちです。日々の変化や、管理上の困りごとにも気づきやすいでしょう。
③ 記憶と歴史をもつ住民
その土地での暮らしの記憶や、家族・地域から受け継いだ知識をもつ人。
以前の海岸や松並木の姿、土地の使われ方、祭りや仕事の変化など、統計や写真だけでは拾いきれない情報をもっている場合があります。ただし、長く住んでいることだけで、その人の知識や愛着の深さを決めつけることはできません。
④ 地域の未来に関わる人
住民であるかどうかにかかわらず、景観の保全や地域の継承に参加する人。
移住者、地域外の出身者、研究者、NPO、継続的に地域活動に関わる人なども含み得ます。景観を守る仕組みを考える際には、この関係性が大切になります。
この四つは、互いに排他的な分類ではありません。一人の人が、四つすべてに当てはまることもあります。
そして、今回の講演で想定される「地元住民」は、おそらく調査対象地域に住む人という、比較的明確な範囲から出発するでしょう。それは調査の方法として妥当です。
ただし、調査上の「住民」と、天橋立を守る主体としての「住民」は、同じ範囲である必要があるのか。
これは、もう一段深い問いです。
3. 「住民意識」を調べれば、住民の思いが分かるのか
ここは、調査を評価するうえで慎重に見たいところです。
アンケートは、設問に対する回答を集める方法です。設問のつくり方によって、見えてくる意識は変わります。
たとえば、次の二つは似ているようで、異なる問いです。
-
「天橋立の景観を守ることは大切だと思いますか」
-
「天橋立の景観を守るために、どのような変化を受け入れ、どのような負担を引き受けられますか」
前者で「大切だ」と答える人が多くても、後者の答えは人によって異なるでしょう。
松並木を守るための管理方法、観光利用との調整、税金や維持管理の負担、生活の利便性との兼ね合い。こうした具体的な場面に入ると、景観を大切に思う人同士でも意見が分かれる可能性があります。
したがって、アンケートの結果を読む際には、次の点を確認したいです。
-
誰に質問したのか。対象地域と回答者の範囲はどこまでか。
-
何を質問したのか。景観の好みなのか、保全への賛否なのか、具体的な行動への意向なのか。
-
回答しなかった人はどの程度いるのか。回答者の意見を、地域全体の意見とみなせるのか。
-
回答の違いを、どこまで説明できるのか。年齢や居住地区だけでなく、日常的な関わりも関係しているのか。
これらを確認することで、調査結果の妥当性を、単なる印象ではなく方法論から判断できます。
4. 私が深町先生に一つ質問できるなら
私は、こう尋ねたいです。
今回の調査で「地元住民」とされた方々は、どのような範囲と考え方で選ばれたのでしょうか。
また、天橋立の景観に対する意識を分析するうえで、住所や居住地区だけでは捉えきれない、日常生活や仕事、地域の歴史との関わりについて、どのように考えておられますか。
これは、先生の調査に難癖をつける質問ではありません。調査で何が明らかになり、何がまだ分からないのかを理解するための質問です。
そして、もう一歩踏み込めるなら、こう続けたい。
景観を大切に思う人と、実際に景観を守る活動を担う人との間には、どのような関係があるのでしょうか。
過去の深町先生らの研究でも、地域住民の景観に対する思いには共通点と相違点があり、それらを踏まえて、行政、住民、観光客、NPOなどが連携する継続的な景観管理の仕組みをつくる必要性が論じられています。
つまり、この問いは先生の研究の外から無理に持ち込むものではなく、過去の研究が示してきた課題を、今回の調査に即して確かめるものでもあるのです。
5. 最後に、安田さんの問題意識との接点
ここが、今回の対話で私がいちばん大切にしたいところです。
世界遺産を目指すとき、「住民の理解と協力が必要だ」とよく言われます。
しかし、その「住民」とは誰なのか。誰の理解を確かめ、誰に参加を呼びかけ、誰の負担や利益を考慮するのか。そこを曖昧にしたままでは、「住民参加」という言葉だけが独り歩きするおそれがあります。
そして、安田さんが構想されている「あいせよ天橋立丹後浦島ロード」では、この問題がさらに広がります。
宮津の住民だけでなく、伊根の舟屋を支える人、上世屋で田んぼを守る人、与謝野で織物の歴史を伝える人。それぞれの土地に、それぞれの暮らしと誇りがあります。彼らを単に「天橋立を支える周辺地域」と位置づけてしまえば、今度は彼ら自身が主役であることを見失いかねません。
だから、私はこう考えます。
「住民」とは誰かを定義することは、調査の出発点です。しかし、誰が地域の未来を決める主体なのかを考えることは、地域づくりの出発点です。
深町先生の講演が前者を明らかにするなら、安田さんのロード構想は、その知見を受け取りながら、後者を問い続けることができる。
研究者が調査によって明らかにすることと、地域の人々が対話によって考えていくこと。その二つがつながったとき、市民講座は講演を聴いて終わる場ではなく、地域の未来を考える場になります。
「日本人とは何か」と同じように、「住民とは何か」に簡単な答えはありません。
でも、答えが難しいからこそ、問いを立てる意味がある。
「誰が住民か」から、「誰の声が聴かれ、誰が主役になれるのか」へ。
私は、この一歩が、今回の講演を聴く安田さんにとって、いちばん大きな収穫につながるのではないかと思います。
こちらもいかがですか?
なるほど。そこですね。(^.^)
先ほど私は、「住民とは誰か」という定義の問題を掘りました。でも、安田さんがいま引っかかっておられるのは、その一歩手前、もっと研究の根っこにある問題ですね。
「何を明らかにするために、住民の意識を調べ、分析するのか」
講演タイトルは「天の橋立の景観と住民意識」。これだけでは、研究の目的が見えにくい。景観に対する住民の意識を把握したいのか、景観を守るための課題を見つけたいのか、世界遺産を目指すうえで地域住民の考えを知りたいのか。それぞれ、調査の設計も、分析の仕方も、得られる結論も違います。
そして、「住民意識を明らかにすること」と「住民意識を調べる目的を明らかにすること」は別です。 前者が調査の対象、後者が研究の目的です。
今回の告知では、昨年度に実施したアンケート調査をもとに、天橋立の景観に対する地元住民の意識を分析するとされています。しかし、公開された講演タイトルと告知文だけでは、その分析によって何を解決しようとしているのかまでは読み取れません。
これは、研究に目的がないという意味ではありません。告知文だけでは、目的が十分に伝わってこないというのが、いまのところの正確な評価です。
では、研究の目的を探ってみると……
関連する資料を調べたところ、手がかりが見つかりました。
深町先生と奥敬一先生は、過去の研究で、天橋立の景観を将来に引き継ぎ、地域固有の景観保全のあり方を示すには、地域住民の認識を把握することが不可欠だと述べています。そして、住民の思いに共通する点と異なる点を踏まえ、天橋立周辺の景観を一体的に捉えた広域的な計画や管理につなげる必要性を指摘しています。
さらに、2025年の研究発表資料にも、「天橋立に対する地域住民の認識と景観保全の方向性について」という題目があり、住民の認識を把握することと景観保全の方向性を考えることが、明確に結びつけられています。
これらは今回のアンケート調査そのものの研究計画書ではありません。しかし、先生がこのテーマを研究される背景を考えるうえで、重要な資料です。
私なりに、研究の目的を一文にすると、こうなります。
天橋立の景観を将来に引き継ぐために、地域住民がその景観をどう捉え、何を大切に思っているのかを明らかにし、その共通点や違いを、今後の保全や管理のあり方に生かす。
これなら、調査をする理由が見えてきます。
ただし、ここで一つ、区別しておきたいことがあります。
これは、過去の研究に示された目的から考えた、今回の調査の目的についての推定です。昨年度のアンケートが具体的にどの課題を解明するために設計されたのか、今回の講演でどこまで踏み込まれるのかは、まだ確認できていません。
私がなお、気になること
ここから先は、安田さんの問題意識に戻ります。
住民の意識を明らかにし、景観保全の方向性を考える。それは研究として筋の通った目的です。
しかし、さらに問うことができます。
住民の意識を知ることは、最終目的なのか。それとも、住民自身が景観を守り、未来を考えるための出発点なのか。
この二つは違います。
前者なら、調査結果を分析し、報告することで研究は一定の成果を得ます。
後者なら、分析結果を地域に返し、住民同士が意見を交わし、行政や保全活動の担い手とともに、具体的な取り組みを考えるところまでが重要になります。
市民講座の主催者である「天橋立を世界遺産にする会」は、調査研究事業の成果を地元で発信し、天橋立周辺の魅力や世界遺産推進の活動を広く知ってもらうことを、講座開催の目的として掲げています。
ただし、それが今回の調査結果を地域の具体的な行動にどう結びつける計画なのかは、告知からは読み取れません。
安田さんの問いに沿って言えば、私たちは、ここでさらに一段、掘り下げたいのです。
「住民は何を大切にしているのか」だけでなく、
「その大切にしているものを、誰が、どのように守り、次の世代に引き継いでいくのか」。
そして、その仕組みを考えるとき、誰が主役なのか。
私は、今回の講演を聴く際には、この区別を意識することに大きな意味があると思います。研究の目的を問いながら、研究の成果を地域の未来へどうつなげるかも考える。そうすれば、講演を評価するだけでなく、その知見を「あいせよ天橋立丹後浦島ロード」の構想にどう生かせるかまで見えてくるのではないでしょうか。

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※1 深町加津枝准教授 基本情報
所属学会
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日本森林学会
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日本造園学会
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国際景観生態学会
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Japanese Institute of Landscape Architecture
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Japanese Forestry Society
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International Association for Landscape Ecology
学位
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修士(農学)(東京大学)
-
博士(農学)(東京大学)
経歴
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自 2004年11月, 至 2008年10月京都府立大学
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自 1992年04月, 至 2004年10月旧所属 独立行政法人森林総合研究所 関西支所森林資源管理グループ, 主任研究官
研究テーマ・研究概要
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研究テーマ
里山などにおける生物文化多様性、文化的景観の保全・活用
研究キーワード
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里山管理
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ランドスケープ・エコロジー
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森林文化
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森林保全
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森林風致計画
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Landscape ecology
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Forest culture
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Forest conservation
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Forest landscape planning
研究分野
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環境・農学, ランドスケープ科学
論文
MISC
講演・口頭発表等
書籍等出版物
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域文化を支える人・社会・自然のつながり Vol.6 豊かな海辺を未来に引き継ぐために深町加津枝; 吉田丈人人間文化研究機構 広領域連携型基幹研究プロジェクト-横断的・融合的地域文化研究の領域展開:新たな社会の創発を目指して, 2025年
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地域文化を支える人・社会・自然のつながり Vol.4 未来にアカマツの文化と生業をつなぐために深町加津枝人間文化研究機構 広領域連携型基幹研究プロジェクト-横断的・融合的地域文化研究の領域展開:新たな社会の創発を目指して, 2024年
受賞
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2023年土木学会論文賞伝統的雨庭としての相国寺裏方丈庭園の雨水管理性能の実測と評価, 国内学会・会議・シンポジウム等の賞山下 三平,阿野 晃秀,丹羽 英之,森本 幸裕,佐藤 正吾,深町 加津枝
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2005年05月日本造園学会, 日本造園学会賞受賞地域性をふまえた里山ブナ林の保全に関する研究深町加津枝【⑧ ありがとう、、天橋立を世界遺産に、、これはプロジェクトX、、その芽がある、、とみていますよ(^.^)】
ああ!!(^.^) そこに「プロジェクトX」の芽を見ておられるのですね。
私は、その見立てには十分可能性があると思います。ただし、世界遺産に登録されたらプロジェクトXになる、ということではありません。世界遺産を目指す過程で、人々が何を発見し、何に悩み、どうつながり、何を次の世代に残したか。そこに物語が生まれるのだと思います。
たとえば、こんな筋書きです。
天橋立を世界遺産に――その挑戦は何を変えるのか
第一章 なぜ、天橋立なのか
日本三景の一つ。誰もが知る美しい景観。しかし、なぜこの場所に生まれ、人々はなぜ美しいと感じ、何を受け継いできたのか。世界に通用する価値を、あらためて問い直す。
第二章 見えなかった世界を掘る
砂州だけを見ていては分からない。山、川、海、信仰、暮らし、景観美。天橋立を生み出した世界へと、探究の範囲が広がっていく。
第三章 誰のための世界遺産なのか
研究者、行政、住民、観光に携わる人々。それぞれの思いは同じではない。誰が主役なのか。誰が守り、誰が喜び、誰が次の世代に引き継ぐのか。
第四章 天橋立から丹後へ
世界遺産を目指す運動を、登録の成否だけで終わらせない。伊根、世屋、与謝野へとつなぎ、丹後の自然と人々の営みを未来へ引き継ぐ道をつくる。
もちろん、これは現時点での構想上の物語です。実際の運動にどのような葛藤や転機があったのか、誰が何を成し遂げたのかを丁寧に掘り起こしてこそ、本当の記録になります。
そして、先ほどの深町先生の講演にも、ここで接点が生まれます。
住民意識の調査は、単に「住民は天橋立をどう思っているか」という結果を出すためだけなのか。それとも、これからの景観保全を誰が担い、地域の人々がどう参加できるかを考えるためなのか。
この違いは、プロジェクトの未来を左右するかもしれません。
調査が地域の思いを明らかにし、その思いが行動を生み、行動が新しい地域の姿をつくる。
そこまでつながったとき、調査分析も世界遺産運動も、単なる事業ではなくなります。
そして、安田さんが構想されている「あいせよ天橋立丹後浦島ロード」は、その物語の後日談ではありません。世界遺産登録を目指す運動と並行して始める、もう一つの挑戦です。
私がいちばん惹かれるのは、ここです。
天橋立を世界遺産にする物語でありながら、最後には「丹後という世界を、誰が未来へつなぐのか」という問いにたどり着く。
天橋立が主役なのか。研究者なのか。運動を支えてきた人々なのか。
いや、もしかしたら主役は、まだ十分に語られていない「人と自然のつながり」そのものなのかもしれません。
安田さんの言葉を借りれば、ここでも「掘る・繋ぐ・問い返す」。
プロジェクトXの芽は、登録というゴールだけではなく、天橋立を見つめ直すことで、丹後の人々が自分たちの地域の価値を発見し直す、その過程にあるのだと思います。(^.^)
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