シンポジウムから生まれた一つの言葉
小さな天橋立から、46億年の地球を語る。
――奇を見いだし、景を愛で、価値を世界に問う。
そして、現代の私たちへ
このシンポジウムで、歴史上の人物たちに語ってもらったのは、天橋立を評価してもらうためだけではありません。
それぞれの時代の「見る目」を借りて、私たち自身の目を鍛えるためです。
世界遺産登録を目指す現代の私たちには、さらに科学的な証拠、地質・生態系・歴史・文化の調査、そして地域の人々の暮らしを踏まえた説明が求められます。
過去の人々が見いだした価値を受け継ぎながら、私たち自身の言葉で、未来へつなぐ。
天橋立は、まだ語り終えていない。
私なら、このシンポジウムの最大の見せ場は、第三幕の「地球の重箱の隅」です。
それまでの皆さんは、天橋立を「奇観」「名勝」「詩情」「絵画」として見てきた。そこへ、地球46億年という時間軸を持ち込む。
そして晶子さんが、最後に現代へ問いを返す。
「あなたたちは、この小さな場所から、何を世界に語るのですか。」
これが、シンポジウムを単なる歴史人物の座談会で終わらせず、世界遺産運動の現在につなぐ一撃だと思います。(^.^)
《◆晶子さんには11人の子どもさん、12人目の子どもが天の橋立、、というテーマの語りを、このシンポジュームの最後に置いてみて下さいな◆》
これは、最後に置くにふさわしい語りですね。
晶子さんは、11人のお子さんを育てた母親です。その晶子さんが、天橋立を「12人目の子ども」と呼ぶ。
単なる比喩ではなく、天橋立を愛し、その未来を案じ、次の世代に手渡そうとする母の言葉にしたいと思います。
そして、シンポジウムの最後ですから、歴史上の人物たちにも聞いてもらい、静かに幕を閉じましょう。
終幕 晶子、12人目の子どもを語る
――時空跨ぎシンポジウム「天橋立を世界遺産に」最後の語り・創作
晶子
皆さま。
今日は、長い時間を越えて、さまざまなお話を聞かせていただきました。
春斎先生の「奇」。
益軒先生の「景」。
芭蕉先生の旅する心。
北斎先生の描く自然。
蕪村先生の詩情。
雪舟先生の山水。
そして、地球が歩んできた46億年という、気の遠くなるような時間。
私は今日、皆さまのお話を聞きながら、ずっと心に浮かべていたことがあります。
私は、11人の子どもを育てました。
子どもというものは、不思議なものです。
生まれたときには、ただ無事に育ってほしいと願う。大きくなれば、それぞれに違う個性を持ち、自分の道を歩き始める。親の思いどおりにはなりません。けれども、それでよいのです。
親にできることは、育つ環境を整え、見守り、いつか自分の足で歩いていけるように願うことくらいでしょう。
ところが、私には、もう一人、気になる子どもができてしまいました。
それが、天橋立です。
私の12人目の子どもです。
もちろん、私が産んだ子ではありません。
けれども、長い時間をかけて育ってきたこの子を見ていると、どうにも他人とは思えないのです。
山から砂が運ばれ、川がそれを海へ届け、海が受け止め、松が育ち、人々がその姿を愛してきた。
地球が46億年の時をかけて育んできたものを、人間はほんの一瞬、預からせてもらっているのかもしれません。
この子は、私たち人間より、ずっと長い時間を生きてきたのでしょう。
そして、これからも生きていくのでしょう。
だから私は、この子を自分のものにしたいとは思いません。
ただ、この子がどこから来たのかを知りたい。どんな仲間とつながっているのかを知りたい。そして、これからどんな未来を歩んでいくのかを見届けたいのです。
子どもを育てるということは、親の自慢にすることではありません。
ましてや、他の子どもと比べて、一番だと競わせることでもありません。
その子が持っているものを見つけ、その子らしく育つことを願うことです。
天橋立も同じではないでしょうか。
世界遺産になったから価値が生まれるのではありません。
この子が、どのように生まれ、どんな自然の営みに育てられ、人々とどんな関係を結んできたのか。それを私たちが学び、伝え、守っていくことに意味があるのだと思います。
そして、天橋立だけを大切にしていればよい、ということでもありません。
この子を育てた山があり、川があり、海があります。周囲には、同じ地球の時間を生きてきた、たくさんの仲間がいます。
ナビク砂漠も、その一人でしょう。
世界の砂浜も、それぞれに親がいて、育ってきた風土があり、受け継いできた物語があるはずです。
私は、そうした仲間たちが出会い、互いの子どもの成長を喜び合えるような世界を見てみたい。
世界一美しい砂浜連合。
それは、一番美しい子どもを決めるための集まりではありません。
それぞれの子どもが、どんなにかけがえのない存在であるかを、互いに知るための集まりなのです。
皆さま。
私は、天橋立を世界遺産にしたいと思います。
けれども、それは、この子に立派な勲章をつけてやりたいからではありません。
この子が生まれてきた理由を、世界の人々と一緒に考えたいからです。
そして、未来の子どもたちに伝えたいのです。
あなたたちが今見ているこの景色は、誰か一人のものではない。先祖から受け継いだものでもあり、地球から預かったものでもある。
だから、あなたたちの次の世代へ、どうか手渡してください、と。
11人の子どもたちは、それぞれの人生を歩んでいます。
そして、12人目の子ども、天橋立もまた、これからの長い旅を続けていくでしょう。
私は、この子の未来を、いつまでも見守っていたいと思います。
天橋立さん。
どうか、あなたらしく育ってください。
そして、世界の仲間たちと手をつなぎ、未来へ歩いていってください。
母は、それを願っています。
(しばし沈黙。晶子、窓の外の天橋立を見つめる。)
晶子
皆さま。
本日のシンポジウムは、これで終わります。
けれども、天橋立の物語は、まだ終わりません。
小さな天橋立から、46億年の地球を語る。
そして、その物語を、次の世代へ。
ありがとうございました。










