2012,5,10
薄紅色を、いつから桜色と言うようになったのだろう。私たちは、表現の多様性をもっと取り戻さなければならないのではないだろうか。タニウツギ、君を見ていてそう思う。君の色は、タニウツギ色!
さて、タニウツギでおもしろいのは、たくさんの方言を持つこと。これが咲いたのでマメをまけ、と豆まき花 これが咲いたので鰯が獲れるぞといわし花。苗も植え頃ぼちぼち田植えだと、たうえぼちぼち。よく目立つので、人は暦の役を任しました。
また、このタニウツギ。リョウブと並んで、人の厳しい暮らしを支えてくれました。不作、凶作に常に備えていなければならなかった頃のことです。そう、救荒植物。どちらも、若葉をよく干して臼で搗き、米粒程とし、これを水に浸して蒸し、またよく乾燥させます。いざ、というときには、逆にそれを煮て水気をしぼれば再び食べられるようになりました。二重俵に入れて火棚や屋根裏の乾燥するところに上げておけば、何年たっても味は変わらなかったといいます。
タニウツギは、 スイカズラ科タニウツギ属。日本海型気候に適応した日本特産種。北海道の西側、本州の東北地方、北陸地方、山陰地方の山地の谷沿いや斜面に多く見られます。ローカルな花ですから、薄紅色は桜に譲ったとしても、その美しさは揺らぎません。「田んぼぼちぼち、摘んでとっておくこと、忘れるんじゃないよ」親が子に子が孫に伝え続けた油断なく備える勤勉さがあればこそ、ひとは不作凶作をしのぎ生き抜くことができたことを思えば、タニウツギの花の美しさの味わいは、また深くなります。
タニウツギ色に染められた世屋の谷に、今年もカジカの鳴き音が響きます。
まれに、白花品種のシロバナウツギがあります。