生物多様性保全上重要里地里山500への選定。
さて、環境省は平成18年9月14日の第11回持続可能な国土管理専門委員会に 「国土利用計画ヒアリング資料」という資料を提出しています。これは現状認識や学者の理論、対策など総合的にまとめてあってなかなかおもしろいものです。
たとえば、学者の理論では、三人の本とその主たる内容が紹介してあります。
① 宇沢弘文「「社会的共通資本」
「社会的共通資本は、一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能とするような社会的装置を意味する。
社会的共通資本は自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の三つの大きな範疇にわけて考えることができる。大気、森林、河川、水、土壌などの自然環境(自然資本)、道路、交通機関、上下水道、電力.ガスなどの社会的インフラストラクチャー、そして教育、医療、司法、金融制度などの制度資本が社会的共通資本の重要な構成要素である。都市や農村も、さまざまな社会的共通資本からつくられているということもできる。」゜
○自然環境は、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持するために不可欠なものなのだ、
②ポール.ホーケン、エイモリ.B.ロビンス、L.ハンター.ロビ
ンス「Natural Capitalism(邦訳:自然資本の経済)」
「ナチュラル.キャピタリズムとは、人工的な資本を使用した生産と、自然資本の維持.供給のあいだに重要な相互依存関係があることを認めた考え方である。従来の定義によれば、資本とは、金融資産、工場、設備の形で蓄積された富のことである。経済が順調に機能するために必要な資本は、実際、次の四種類に分類される。
1 人的資本労働や知識、文化、組織の形をとっている。
2 金融資本現金、株式、金融証券から成り立っている。
3 製造資本インフラ(社会的基盤となる)施設を含めた、機械、道具、工場などがある。
4 自然資本資源、生命システム、生態系のサービスなどから成り立っている。」
○経済が順調に機能するためには自然資本資源、生命システム、生態系のサービスなどが大切だ
③ハーマン.E.デイリー「BEYOND GROWTH The economics
of Sustainable Development(邦訳:持続可能な発展の経済
学)」
「 財.サービスの生産にあたり、従来の経済学が、自然資本の減少は人工資本の増加により代替できるとした前提を否定し、両者は補完的であり、現在残された自然資本が生産の限定要因になりつつある、などと指摘している。」
○自然資本の減少が生産の限定要因になりつつある
(上 鎌による手刈りの畦)
それなのに、私たちの国土を取り巻く環境は、ざっとみても以下の通り。
・20世紀の100年間で日本の平均気温は約1℃上昇した。また、2004年度における我が国の温室効果ガス排出量は基準年比7.4%の増加であり、京都議定書の6%削減約束との差は、13.4%にものぼる。
・温室効果ガス濃度の安定化を達成するためには、2300年時点で排出量を現在のレベルの半分以下へ減少させる必要があると予測されている。
・二酸化窒素に係る大気汚染の状況については改善傾向にあるが、大都市地域においては、局地的な高濃度汚染が解消されていない地域が依然として存在する。
・大都市において、平均気温の増加や熱帯夜の出現日数の増加が見られ、都市における熱環境の悪化(ヒートアイランド現象)が顕在化している。
・公共用水域における生活環境保全に関する水質環境基準の達成状況は全体的に改善の傾向にあるものの、閉鎖性水域ではその達成状況は十分ではない。
・水循環の急激な変化により、水質、水量、水辺地、水生生物等に関し様々な問題が顕在化している。
・リサイクルの取組は進展しているものの、大量消費、大量生産、大量廃棄型の社会経済構造を背景に、ごみの排出量は高い水準が継続している。
・不法投棄された廃棄物の処理の問題が存在する。
・難分解性の有害化学物質による土壌汚染のほか、PCB等難分解性の有
害化学物質の処理の問題など環境上の「負の遺産」が存在する。
・「人間活動による生息・生育環境の悪化や種の絶滅のおそれ」、「人為の働きかけの減少に伴う里地里山生態系への影響」、「外来生物や化学物質による生態系の攪乱」という生物多様性保全上の3つの危機が深刻なものとなっている
、、、、と、まとめていえば、「自然資本」の劣化が著しく進行し、発展を展望することが困難であるから、各分野で対策を鋭意講じなければならないと。
(上 注文の多い里山フォトギャラリーにて)
さらに、「国土を支える健全な生態系の維持形成」の部分については、
○生態系上重要地域の保全・再生と生態系ネットワークの形成
・国立公園などの自然公園、鳥獣保護区等の制度を活用した適切な保護地域指定。
・保全すべき自然状態が人為的改変などにより劣化している場合には、その自然再生や景観の維持のための事業実施や各主体の取り組みの支援を推進。
・生物の生息・生育空間の適切な配置や連続性が確保された生態系ネットワークの形成を推進。国土、広域地方圏、地方公共団体レベルといった階層的な空間レベルでの構想・計画策定推進とその具現化。
○里地里山の保全再生と持続可能な利用
・行政・専門家・地域住民・NPO等の連携による体制づくりや自然とのふれあいや環境学習の場としての活用、NPOや土地所有者等の活動への支援、土地所有者等との協定の締結といった種々の仕組みを幅広く活用しつつ、総合的な保全を実施。
・モデル地域における里地里山保全再生モデル事業の成果の発信を通じて、全国各地への里地里山保全再生の実践的な普及を促進。
○野生動物の保護管理・外来生物対策の充実
・希少野生動植物種については、捕獲等の規制のほか、生息・生育状況の改善、飼育下での繁殖、個体の野生復帰等を内容とする保護増殖事業計画の策定とその着実な実施。
・鳥獣被害の防止や健全な地域個体群の維持を図るため、都道府県が特定鳥獣保護管理計画を策定し、科学的、計画的な保護管理の推進。
・外来生物に関する情報の収集を行い、特定外来生物の飼養、輸入等の規制の適正な実施と防除事業を着実に実施。
○自然とのふれあいの推進
・自然とのふれあいの場の整備やふれあう機会の拡大を図る取組等を実施。また、国立公園等では公園計画に基づいた施設整備を行い、適正な利用を推進。
・エコツーリズムのより一層の普及・定着に向けた取組を総合的に推進。
○自然環境データの整備
・全国の自然環境の面的把握(自然環境保全基礎調査の引き続き実施に加え、人工衛星観測データを利用した概況把握の頻度向上を目指す)
・自然環境の継続的な定点モニタリング(モニタリングサイト1000の推進)
、、、、と、五つの柱で施策を提言しているのです。
その施策の延長が今回の「重要里地里山」の選定であると理解できるわけです。
この資料のなかには、「自然とのふれあいの推進」として
・自然とのふれあいの場の整備やふれあう機会の拡大を図る取組等を実施。また、国立公園等では公園計画に基づいた施設整備を行い、適正な利用を推進。
・エコツーリズムのより一層の普及・定着に向けた取組を総合的に推進。」ともうたってあります。
(上 森青池を観察しました 6/12)
500ものうちの一つだからたいしたことない、ではなくて、国ぐるみの総掛かり行動なのだと受け止めて、微力を尽くしたいと、その気持ちを込めて立てたということです。
柱は、藤が巻き付いたコシアブラ。