「なんでくもじいうんだかわからんけど、これがうまいんだぁ」
炭焼き体験研修後、野間亭でそば定食のお昼をいただいたおり、ショウガご飯おにぎりやゴボウきんぴらとともに皿に山盛りされテーブルにどんとおかれた青菜の漬け物をさして、とっちゃん先生がいいます。
この「くもじ」とは、まびき菜の切り漬けのことで、 作り方は大根などの間引き菜を2,3cmぐらいに切り、塩をして、しんなりしたら、土ショウガ を1かけ漬物容器に入れ、押しをかける。いたって簡単なものです。。
どこでもたべられているものでしょうけれど、これをまびき菜の切り漬けといわずに「くもじ」というのは丹後の特徴なのでしょう。なぜまびき菜の切り漬けといわずに、「くもじ」というのか、そのわけをチェックしてみましたところ、これは「く」と「もじ」が合体したもので、その「もじ」というのはなんでも、室町時代、宮中に仕える女官が主に衣食住に関する事物に接尾語として用いた一種の隠語的なことばなんだそうです。。
{ことばの 虫 メガネ}という ブログで、詩人で、中学、高校の国語教師の織田道代さんが、「ことば」を虫メガネで覗くようにして拡大してお話ししてくれていますが、そのなかに『くもじ』あります、茎くきを刻んでつけた浅漬けと!
研修のお礼代わりに、全文アップさせてもらいます。
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もじことば・・文字詞
「近いうちに、おめもじしたく存じます。」
昔は、こんな風に、手紙の最後に書いたものだが、この頃は手紙そのものが下火になって、メールというものに取って代わられつつあるようだ。
「おめもじ」とは「お目もじ」で、勿論、お目にかかること、お会いすることであるが、恐らくメール上に、この言い回しが登場することはまず殆どないといっていいだろう。
「おめもじ」は、文字詞の一種である。言葉の下を省略し、その代わりに「もじ」という接尾語を添えていう言い方である。「もじ」は「文字」から来ている。これは婉曲に表すことがねらいであって、元々は女房言葉として発達し、隠語的性格が強かったらしい。
女房とは、宮中で独立した部屋を与えられた高級女官。紫式部、清少納言らがそれである。その流れを汲んで、室町時代の初め頃、御所に仕える女房たちが自分たち独自の言葉として編み出したものが女房言葉である。そして、それは江戸期にもなると、一般の女性たちにまで広がっていった。
例えば「あもじ」。「あ」のつく言葉を婉曲に、謎々めいて「ほら、『あ』の文字の付くアレね……」という具合に使うわけだが、さて、「あ」の字が付く言葉は山ほどある。宮中に仕える女房たちに縁のある言葉の中で……と自分なりに頭の中で絞っていきながら、辞書を繰ってみると「あもじ」は姉のこととある。ははぁん、なるほど、女房言葉らしく姉御許(あねおもと)のことなのかと、ちょっと納得する。
現在にかろうじて生き延びている文字詞を拾い出せば、「おめもじ」以外には「かもじ」「ゆもじ」あたりだろうか。
「かもじ」は髪のこと。特に髷を結ったりする時に付け足す入れ髪のことである。明治生まれの祖母が、薄くなった髪をきゅっと高く結い上げ、鏡台の引き出しからおもむろに「かもじ」を取り出して、上手に付けていた様子が記憶にある。私の中の「かもじ」はあれである。ついでに言うと、鬘(かつら)はつる草や草木の花や枝、つまり「かづら」を髪に巻きつけて飾りとしたところにルーツがあるようで、本物の髪を添える「かもじ」から、現在の鬘、ウイッグへ発達したと思われる。
「ゆもじ」は「湯文字」と書き、湯帷子(ゆかたびら)のこと。湯帷子とは入浴中、あるいは入浴後に着る単衣の着物のことで、今の浴衣(ゆかた)である。浴衣は最近、彩り鮮やかに流行しつつあるが、これは実は「ゆかたびら」が略されて「ゆかた」となったものである。また「ゆもじ」は「湯巻」といって、入浴中の貴人の世話をする女性が、衣服の上から腰に巻いた布の意味もあり、それから下着としての腰巻をも表すようになったらしい。
こうしてみると、文字詞には何らかの理由ではっきり言うのをはばかる言葉や、特別に思い入れのある言葉などが選ばれているような気がする。
衣食住に関わるいろいろな言葉が文字詞化されたことが想像されるが、今、辞書類で拾い出されるものを挙げてみると、つぎのような文字詞が目に付く。
あもじ・・姉
いもじ・・湯文字の転 腰巻
うもじ・・内方(貴人の奥方) 又は 宇治茶
えもじ・・蝦(えび)、又は鱠(えそ、魚の一種)
くもじ・・くわんぎょから 還御(天皇、将軍などが出先から帰ること)
くこん(九献)から 酒
くき(茎)から 漬けた菜
こもじ・・鯉 又は 小麦
さもじ・・鯖 又は 肴
すもじ・・鮨 又は 推文字(推量)の略
そもじ・・そなた
ともじ・・父(とと)
にもじ・・にんにく
ぬもじ・・盗人
ねもじ・・練貫 又は 練絹 又は 葱
はもじ・・恥 はずかしいこと
ふもじ・・鮒 又は 文
ほもじ・・干飯(ほしいい)
みもじ・・味噌
わもじ・・若者 又は われ(お前)
全体的に、食べ物関係が多いようだが、食べ物は露骨に言わず、文字詞でちょっとおぼろげに言うのが上品だったのかもしれない。
もじもじと 恥ずかしがってる 文字詞
おめもじは おはもじなので ふもじする(お目にかかるのは恥ずかしいので、お手紙で・・)
こんな川柳をつくってみたが、それよりもっと面白そうなのは、自分にとっての文字詞を決めること、あるいは気の合う仲間内にだけ通じる文字詞を作ることである。現に、文字詞を崩して「ほの字」(惚れること)、「きの字」(きじるしと同じ)としたのも、どこかの誰かが発明した言い方だろう。もしも「ほの字」を「ほもじ」としていたら、また別の意味も加わりそうであるが・・・
例えば「あもじ」は、本当は姉だけれど、わたしだったら、愛する、遊ぶ、あんぱん、アンポンタンなど、さあて、どれにしよう?「ねもじ」は絶対猫!「ともじ」はトイレかなぁ・・などと考えると、なかなか楽しそうである。仮に「めもじ」をメールと決めれば、「おめもじできませんので、メもじでお返事いたします。」ってなことをメールで打つようになるのである。
さて、それでは今宵、気まぐれ猫を助手にしながら、まずは自分の文字詞表でも作るとしよう。
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古い時代の懐かしいものが、言葉でも息づいているんですね、丹後には。