テルミさんがふっと思い出したとおっしゃるのです。「母親は“あんこなげな”ということをよういいましたなあ」と。
上世屋には大江房さんという優れた語り部がいらっしゃって、その語りが忠実に採録されてNHK出版からの「日本の民話」の一部をなしています。その世屋のお婆ちゃんの民話を語りたい、ついては、上世屋のおばあちゃんたちの語り口、抑揚、リズム、言葉の意味などおしえていただきたいとおっしゃる古典文学の語り部三田乙絵さんを案内して訪ねた時のことです。
「まあこんにあんこなげーなもん、おくれるだえ!」とつかわれたそうです。手の込んだたいそうなええものという意味で、賞賛する時に用いられます。
初耳、へーえ、そうだったんですか!
さて、褒める言葉があれば、けなす言葉があります。 「いなげなもんだけど」、、、、とへりくだり、「なに、いなげなことしとるだあ」とけなす、「いなげな」が上世屋ではそれにあたります。つまらない、くだらない、簡単な、しょうもない。手を抜いたええかげんなものという意味です。
否定する一方で肯定し賞賛して人間関係は膨らみます。
「いなげな」と否定する一方で「あんこなげー」と肯定し賞賛する言葉がみつかったのは貴重なことです(^.^)
また、これらがここ独特のコアな方言かというと「いなげな」のほうはそうでもないようです、広島愛媛島根などから報告が上がっていますので、四国、中国地方で広く使われているようです。漢字表記があるそうです。【異な気な】。漢字が使えるということは、相当な知識人、教養人でしたから、今は地方の方言になっていますけれど、元は都の由緒正しい教養人がお作りになった言葉かもしれません。でも、「あんこなげーな」という褒め言葉、これにはヒットすることができませんでした。セットでは残っていないようです。肯定語と否定語とのセットの内、肯定語から埋もれるとしたら残念じゃないですか、
時間の地層にひょこっと顔をだした褒め言葉。これを生かさない手はありません。ぜひ、つかってください、、、“あんこなげーなことようしなっただあな!”と。
で、この世屋民話の語り、聞く会をぜひ実現したいと思っています。