宮津エコツアー · この山道を 行きし人あり

この山道を 行きし人あり

釈迢空さんのクズの花を詠んだ歌。 「葛の花 踏みしだかれて色あたらし この山道を 行きし人あり」 これは誤表記。正しいものは 「葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり」 句読点があるのが正しいのだそうです。

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この山道を先に歩いた人があるのをクズの花の踏みしだかれているので知ったのだが、まだ時間はたっていない、ついさきほどではないかと思えるほどだ、というのは花の色が新鮮なことでわかるという歌。

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道を先に歩いている人がいる、そしてその人との距離は遠くない、というのは客観的な事実なのだけれど、問題は、足を速めれば追いつけるのではないかという気持ちがうかがえること、道を行くという語句の中に彼の身をおいているどんな状況と気持ちが表現されているのかを豊かに想像させます。そういう意味では、山道を行く孤独な緊張感がふと緩む瞬間をとらえ、客観と主観の両方が実にたくみに表現されている秀句です。が、それには句読点がなくてはならない役目を果たしているというわけです。短歌のルールに外れているといえばそうなのですが、それが彼の流儀。 IMG_9261

ちなみにこの歌、1924年(大正13年博多から壱岐にわたって滞在したときの旅の歌ということで、集録されている歌集の名が『海やまのあひだ』というのも素敵です。

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