2012,5,8
河岸段丘の村、下世屋には、龍渓と呼ばれる美しい谷があります。少しずつ隆起する大地を高山や岳山、鼓ケ岳に発する山の水が浅谷、茗荷谷、世屋谷を通ってここに集中し、少しずつ掘り下げてV字の谷を形成しました。かっては、夏は村の子供たちの水遊び場。尺物のアマゴも釣れたと古老は語ります。
また、龍渓という名は、成相寺より龍の彫り物を依頼された左甚五郎が想を得るため、この谷に七日七晩籠もっておったところ、黒雲とともに龍が天に昇ったという言い伝えによってつけられたということです。
この龍渓には、二つの橋が架かっています。一つは、下川橋。谷を渡るアーチの美しい石造り橋です。もう一つは、龍渓橋。深さ四十メートルの谷をわたります。
五月、谷を渡る藤が盛りを迎えています。耳を澄ませば、谷を埋めるカジカカエルの銀の笛の音。
村の寺、松源寺は、水上勉さんの金閣寺炎上を描いた『五番町夕霧楼』のヒロイン・「ゆうこ」の菩提寺に模された山寺、
よく手入れされた道沿いの家の庭木なども見所です。声高にはアピールすることはなくても、おもてなしの心がひっそりと息づく静かな里、下世屋・龍渓を訪れてみませんか。