にほんの里100選に選ばれている宮津・上世屋。この土地で世屋ふるさと協議会を立ち上げ、この土地を守り、元気にしていこうと尽力した人、それが前野さんでした。前野さんはこの丹後の宮津で、エコツーリズムを始めるかどうかという初期の段階から議論を重ねた人でもあります。
世屋の地で頑張る人の力を活かし、観光とつなげて交流人口を増やしたい。そんな要望が前野さんたちに投げかけられ、議論は徐々に本質的な内容へ。「エコツアーとは、何のためにあるものなのか?」非常に難しい課題であり、議論は半年間にも及んだそうです。その時を経て、前野さんは今、何を思いながらエコツアーに取り組んでいるのでしょうか。
取材/宮津市
エコツーリズムが始まるまでの経緯はどのようなものでしたか?
始めは、「観光のために」という話かと思いました。観光のためにある、というのだったら、僕らは考える、と。そうではなく、観光はもちろんだけど、周辺の限界集落と言われている地域の振興ためにやるんです、という主旨の説明を受けて、議論を半年くらいやっていました。観光のために、というのは、結果的にはそうなったらいいけど、もう一歩広い意味で、地域振興を大きな目的としています。そこからエコツアーとして、上世屋という土地から生まれた技術、伝統を見直すことの大切さを伝えて行こうと活動を始めました。
世屋から生まれた技術、伝統というのはどういうものでしょうか?
世屋の人たちが培ってきた、一年を通じて自然とともに暮らして行く生活の知恵として生まれたものです。例えば雪の上を歩くためのカンジキは、山へ行ってカヤの木を切り、曲げて整形して1年くらい癖をつけてから縄で作ります。地元のコンニャクづくりは地元のおばあちゃんに教わりました。コンニャクづくりは芋づくりからで、5月に芋を植えて秋に掘り起こし、それを3年繰り返して育てたこんにゃく芋を使います。
シナの木からできるシナ縄は、木の皮を池につけて繊維をとっていきます。6月ごろに木を切って池につけておくと、10月中旬くらいには中の繊維分だけになっています。これを水わらにして干していきます。田舎では春は忙しいので、冬仕事としてこのシナ縄を作ります。
こんな、長年の経験から生まれた技術がいくつもあります。私たちも、全部一気にできないので、1つずつ取り組んでいます。
生活の技術を伝える中で、重視していることは?
1年を通じて違うことを体験していただく、ということです。世屋での生活は自然と暮らしていくものなので、1年間のサイクルがあります。そういった季節による違いを実際に体験してみる、そういう取り組みをしています。単品を作るだけの体験ではなく、過程を分かって頂くことで、ものをつくるという以外のことも分かってくるのではないでしょうか。そして体験して伝承していくのも大切だけど、ただそのものを伝承していくだけでなく、今の時代に活かせるものにもっていけたらいいなと考えています。
エコツアーの取り組みの中で、大切に思われていることは?
地域の笑顔・文化というものがエコツーの柱だと思っています。そこに住む人がいる、というのが先、土地の人が喜ぶのが先です。どれも世屋で展開してもらうことだから、地域の方に協力してもらって出来ていること、という認識が大切だと思います。
お客様とのエピソードで、思い出深いものは?
ホームページを通じて、柿渋塗り体験やガイドウォークを家族で申し込まれた方がいらっしゃいました。子供さんを自然に触れさせたいとのことで、2日間にわたってプログラムを組みました。お客様は「息子に限らず、親にとってもエクセレントな体験でした」と。
ぜひ今後も、たくさんの子供さんに来て欲しいですね。体験させるべきだと思います。
このページをご覧になった方へのメッセージをお願いします。
(世屋のような) 里山の暮らし、が人の暮らしの根本になっていいんじゃないか、と思っています。1年を通じての里山での生活が、これまで忘れてしまっていたものを思い出させてくれます。考え直す、いい機会ではないでしょうか。こうした取り組みの中で大きなものが出来ると、山の良さ、大切さが見直されてくるのではないかと思います。ぜひ、ご家族でゆったり来て欲しいと思います。
前野庄作(まえのしょうさく:1945年生)
建築士。家を建てることは、暮らし方を考えること。新しい物を取り入れる必要がある一方、里山の智恵や技術を生かす大事さを感じています。またそれらを丸ごと残したいと、コンニャク作り、柿渋作り、シナ糸取りなど取り組んできました。皆さんもぜひ参加体験しにいらしてください。 (体験・ものづくり担当)