北川忠彦先生のご専門は中世文学、能・狂言の世界のエキスパートでいらしたが、近代文学にも関心が深く、学生の頃わたしは藤村の「破戒」の演習で指導を受けた。作品には聖書の影響が色濃いのではないか、という視点で書いた苦し紛れのレポートを「ヒット」だと評されたのが嬉しく、それが心の支えになった。それから先生をわたしは一方的に「師」と仰いだ。
卒業後、勤めている学校は天の橋立の近くにあることを報告しておいたら、まもなく葉書が届いた。]
「天の橋立に寄る、与謝野鉄幹、晶子夫妻が歌った天の橋立の一文字観を見たい、案内せよ」とのこと。
◇たのしみは 大内峠に きわまりぬ まろき入り江と ひとすじの松 鉄幹
◇海山の 青きが中に 螺鈿おく 峠の裾の 岩滝の町 晶子
免許取り立ての軽乗用車でご大内峠のつづら折れの道を案内した。
さて2014年、今年初めの晴れの朝、「初日やいかん」とその一文字観にいくと阿蘇海は雲の海。
砲術を極めた城主稲富伊賀守の居城、弓の木城も雲海に浮かんで、天空の城。
中世丹後の治者一色氏も、この砦で人生納めの能をまって最期の決戦にのぞんだのだろう。
先生ガご覧になりたかったのは、雲海が近・現代を埋め中世の世界を蘇らせてくれたこの一文字観だったのだと、心は「なだそうそう」。
しみじみとシャッターを切った。
ちなみに、霧が風に散らされたあとは、、、
夢から覚めたような阿蘇の海!