かみせやの田打ちザクラ・春一番に咲く木 2012.4.5
観音渓谷の周辺は、落葉樹林が美しく保たれています。いたや・ぶな・けやき・とち・みずなら・はりぎり・ほう・はうちわかえでなど里山ブナ林を構成する基本高木がそろっています。その中で、新観音の近くに不思議な木が一本あります。
何でしょう、ヒントを言います。「高木です。そのこずえに白い花を咲かせます。他の木のつぼみはまだ眠っているころ、先駆けて春一番に咲くのです。」よく分かった人はこぶし、と答えられるところを、ちょっとわかった程度の人は、おそらく、たむしば!と答えられるのではないでしょうか。
私は、後者です。昨年の秋の観察会までは。こぶしだったのです。見ていただいたのは前大本教植物園長・津軽俊介先生。落ち葉を捜してルーペでみて、「こぶしですね」たむしばではないんですか。「こぶしです。」このあたりでコブシだと思ってたのは、みんなたむしばでした、こぶしなんですか、と食い下がったけれども、「コブシです。」さすがに京都植物界の泰斗。揺るがない。
花の下に小さな葉っぱのあるなし、程度の判別規準しか持たないものにとって、咲くのが高い梢ときているので、その適用のすべもなく、コブシはこのあたりにはない、という先入観から、たむしばとしていたのです。はっぱで分別できる!
その木の樹高は、しでやいたやなどの高木に混じってひけをとりません。そんな木の姿は、「落葉広葉樹の高木。早春に他の木々に先駆けて白い花を梢いっぱいに咲かせる。 高さは18m、幹の直径は概ね60cmに達する」との図鑑解説と一致しました。
コブシは、「田打ち桜」の別名を持ちます。2011年は4月17日に開花を撮っています。その21日に0君が苗代に種籾を蒔いていました。しかし、雪解けが遅れている今年、里では、苗代づくりも手をつけかねています。そんな様子を見ているのでしょう、もう開花しなくてはいけないのに、何となくとまどっているかのようです。
ちなみに京都府はコブシを、レッドデータ準絶滅危惧種に選定しています。上世屋のコブシは二本の株立ちのうち一本はさらに分かれて立ち上がっています。胸高周囲はおよそ170cm。この種としては、最大にまで達していると考えられます。せやの宝物です。
■ コブシとたむしばの特徴と比較
・コブシは、高木となりがく片は花弁(かべん)の5分の1ぐらいで、花弁はやや丸みを帯びていて、花のすぐ下に1枚の緑の芽がある。
・タムシバは亜高木で花弁が白くてやや細く6枚でがく片が3枚で花弁の2分の1から3分の1ぐらい。
・コブシもタムシバも、花の雄しべは60本以上、雌しべが30本ぐらいで、すべてらせん状に配列されている。 このような花のつき方が、らせん状である植物は起源の古い植物といわれている。
・ 葉は長円形~長卵形で両端が狭く尖り、裏面は粉白色をしている。
・コブシが山麓(さんろく)や沢筋に自生するのに対して、タムシバは山腹や尾根筋に多く自生する。
・タムシバの樹皮は灰白色、小枝は細長く緑色をおびた褐色であって、その先端には8月ころに、すでに翌年のつぼみをつけ始める。
【その他】
・アイヌの言葉では、「オマウクシニ」良い匂いを出す木「オプケニ」放屁する木と呼ばれる。
・袋菓が結合し 所々に瘤が隆起した長楕円形の果実の形状がこぶし・和名語源となっている。
・樹皮は煎じて茶の代わりや風邪薬として飲まれる。