2013/02/15
森は海の恋人!
山と海のつながりの強さを言い得て妙。このたった三文節の言葉のまとまりが、植樹参加者毎年数千人を気仙沼に呼ぶと言います。この言葉を知ることで何かが起こるのです。じっとしていられなくなるのです。えらいことです。これが言葉の力と言うことなのでしょう。
『地域と人 伝えるしごと』、「情報発信力講座」でお話いただくタイトル。講師の石崎さんは、~言葉の力を生かそう~とサブタイトルを付けられました。
言葉は不思議な力を持っている、それは確かなことです。3月3日に期待が膨らみます。
ところで、草野心平さんにも、そんな言葉があると言います。
「あいつが死んでからあの時のあいつの一と言が。
音楽よりもかなしく強く。
いまはおれのからだのなかでさざなみになる。」
「かおも恍惚も忘れたのにどうしてだろう。
そのひとことだけが思いだされる。」と。
「エレジー あるもりあおがえるのこと」
という詩の中にその一節はあります。
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あいつはあの時。
(そうだ。もう六年も前のことになるのだが。)
あいつはあの時。
つぶやくように言ったっけ。
美しいわ。
と。
たった一と言。
水楢の枝にしゃがみこんで。
はっぱのしげみにお尻をのっけて。
そうしておれは。
あいつの三倍も小さくすすぼけた色をしてしびれていたが。
美しいわ? なに言ってんだいとぼんやりおれは。
おっぱい色のもやのなかでわらったものだ。
眩暈するほどの現実のなかで。
恍惚のなかで。
けれどもどうやらはなしはちがってきた。
六年もたったせいかおれの考えもちがってきた。
美しいわ。
あいつが死んでからあの時のあいつの一と言が。
音楽よりもかなしく強く。
いまはおれのからだのなかでさざなみになる。
美しいわ。
の一と言が。
どうしてだろう。かおも恍惚も忘れたのにどうしてだろう。
そのひとことだけが思いだされる。
原始の林とあやめ。横倒しになった楡の古木が水に映るこんなしずかなすき透る沼から。よその土地の者等がやってきて。半分もの好きなアヴェックがあいつをバッグにつめこんで里に降りバスに乗って帰ってゆき。そうして裏の水溜りに放したそうだ。そうだということはおれたちの世界では電波みたいに分るのだ。それからあいつは鳴くことをやめ。あんなに好きなソプラノを遂いぞ歌わず。そうして生ぬるい泥っぽい水のなかでベロを出して陀仏ったそうだ。だれに出したベロ? そのベロ。
そんなこともおれたちの世界では電波みたいに分ることだ。
オリーブ色のあいつの背中。
もうあの背中から夢はもうもうとたちのぼらない。
あいつの背中にかわる背中を。
おれはずいぶん経験した。
けれどもあの時の。
美しいわ。
そんな言葉はあの時がたった一度の経験だった。
恍惚をはぎとるようなそんな余計なたわ言を。
あのさなかに。
どうして言ったか。
おれは片方の眼だけひらいて。
なにほざいてんだと言おうとしたが。
言わずにひらいた眼もとじた。
その通りでそれはよかった。
それがおれには正しかった。
けれどもいまになっておれは切なく思うのだ。
黒い点々のいもりの腹にどれだけ毎年。
おれたちの子たちはのみこまれるか。
また里につれられてったあいつのように。
どれだけ毎年。
おとなも死ぬか。
美しいわ。
とあいつが言ったその時。
あいつのからだの中から千も二千ものあいつの子たちが。
おれたちの子たちが。
沸いていたのだ。
そうしておれとあいつの共同が。
水楢のはっぱに。
子たちを包んだ白いまぶしい泡のかたまりをつくっていたのだ。
恍惚よりもあいつはその時。
生むよろこびと。
そして生もうとする意志の愛(かな)しさを。
美しいわ。
といったにちがいないといまになっては思えるのだ。
ああ死んだくみーるよ
おれはいま。
くみーるよ。
おまえも知ってる北側のあの三本目の。沼につき出た太い水楢の枝の上から。
方々にぶらさがっている電気飴を眺めている。
さっきにわか雨があって。
いまは晴れ。
あやめの紫は炎に見える。
そよ風だよ。
くみーるよ。
お前が好きだったそよ風だよ。
こんな風景なら鈍感なおれにも美しい。
お前はこんな時には。
天からもらったソプラノで。
あの古風なホームスウィートホームをうたったものだ。
いまそよ風に。
われわれの百五十もの綿飴はかすかにゆれる。
美しいわ。
お前の言葉を思い出す。
お前の言葉はなんだか生きてるような思いがする。
お前の言葉はなんだかおれに勇気をくれる。
(ああ人の声。)
人間たちが登ってきた。
生ま木のステッキなどをふりながら……。
おれはしばらくぴったりここに。
動かずにいる。
じゃ。
さようなら。
くみーるよ。
さようなら
・・・・・・・・・
17日のスノーシューウオークでは、モリアオガエルの産卵池を、森からカエルの視点で見ることができますよ。