森の仕掛けた出会い
~泣いた赤鬼の森 賛歌~
森の奥の、二本の木。
太い幹と、
無数の葉と、
広く深く
土をまさぐる根で
風を聴き 光を浴び
大地を抱いて
森を生きている。
それは、
光と、風と、水と、森の
見えない絆のかたち。
小さな苗だったころも、
木に育ち、風に揉まれるころも、
意識することはなかった。
ただ、それぞれが、
人間の森を生きていた。
けれど、 根が広がり、水を分かち、
ふと気づいた隣の存在。
それは、偶然のようでいて、
森が仕掛けた出会いだった。_
かつては遠く離れた根が、
必要に導かれて近づき、
打算のように絡み合った。
一本の木は思った
山が荒れている
こうてくれるもんはおらんか
脳裏には
高原に、工場の煙突のように
炭焼きの煙が幾筋も立ち上っていた
往時が浮かんでいた
山の田んぼが荒れている
こうてくれるものはおらんか
森の痛みが辛かったのだ
もう一本の木には、夢があった
山持ちの大工になりたい
新しく広がる町に呼ばれて
家を建てていたのだ
森の恵みを人の暮らしに変える
そんな仕事が、楽しかった。
山を持てば
様々な木が思うままに使える。
炭の用途は多様だ
椎茸を焼く香りが誘った
木は親指を立てた
「よっしゃ!」

二本の木は
季節を重ね、風の向きに頷きながら、
やがてその関係は発酵した、
土の湿りに気づき、
互いの沈黙が、森の呼吸になっていた。

今では、 互いの葉が影をつくり、
互いの幹が風を受け止め、
森の命を支える柱となっている。
二本の木の楽しみは、
梢で鳥たちが歌い、
虫たちが集い蜜を吸うこと

鳥たちは愛の大切さを、
虫たちは蜜の甘さを
語り、伝えるだろう。
その楽しみのために
森の命の約束を守って
静かに立っている。
森は、また
新たな出会いを仕掛けるだろう。














