2013/01/27
雪のあとの快晴の世屋、
雪深。
多くはない、とはいえ、大屋根から落ちる雪はかなりの量。
下屋とつながり光りを閉ざします。おばちゃん、ひとりではできんのでと、U子さん。
そんな里の雪原に動く黒い点!ウム セッケイカワゲラ!
2月から3月にかけて現れる生き物です。俳句では雪虫として季語では春に含まれています。春は、早いという自然からのメッセージなのかも。
かれとおしゃべりしました。
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セッケイカワゲラとあんたらはよんでいるようだが、おれはおれ、俺のことは、からしまなんとかいったな、そうそう辛島司郎、彼にきいてくれ!ある日若い学生が頼みに来たんだ、研究したいって、大学卒業するのに卒論とかいう、しらべさせてほしいと。調べるってめずらしくもなにもない、おれはこうやっていきてきたし、これからもこうやってここでいきていくだろうなにも珍しいことがあるんだというと、そうそうそこなんです、
珍しいんです、何をお食べになっているんですか 雪の上に食べ物なんかないでしょうとかいろいろきくんだ、その学生が彼なんだ
寸法、特徴を測らせてくれとか 手に取るんだ、手の熱いこと、俺の体は沸騰しそうでおれは悲鳴をあげたよ、ばかやろう すぐ雪の上におろせー。
いろいろ聴いてったな 冬、雪の上に姿を現されるが、一年とおしてどのように生活しておられるんですか、まあどこから雪の上に表れて砂漠をあるくアリのようにさまよっているようにみえるがいったいどこか行く目的があるのですかなんてことをな。
わしも、そういわれれば、自分でも何でこんなことをやってるんだろうと 思うことがあったので、
協力してやることにしたんだ。ただし興味本位にやってもらっては迷惑だ。やるなら性根入れてやってくれ、分かったことがあったらわしも知りたい、教えてくれといったら、わかりました、お約束します、よろしくおねがいしますっていうもんで、付き合ってやることにしたんだ。それから、三年も四年もかよってきてよ、まじめで粘り強くて根気があって、なかなかやるもんだと感心したもんだ。
それでな、こんなことがわかりました、ってよこしたのが、(「おい、ばあさん、手紙あったな、だしてくれ」)これだ、よんでみな!
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最初は、あなたの幼虫がどんな姿で、どこで暮らしているのかなど何も分かっていませんでした。そこで川底をさらってそれらしいカワゲラの幼虫を見付けては研究室で成虫まで育てて、あなたの幼虫かどうかを確認しました。……その結果。約3年かかって、あなたが春に卵を生むこと、卵から孵った1ミリにもならない小さな白い幼虫は、夏場でも水温10度位の川底の砂の中に潜って、秋までずっと眠ること、そして秋になると、落ち葉の堆積物を食べて成長し、川が雪に埋まってしまう12月半ば位に親となって上陸することが分かりました。つまり、あなたは、普通の昆虫とは逆の生活史を持っており、夏に寝て冬に活動されるんです。また、普通の水生昆虫の成虫は、3日程度、長くても2週間位の儚い命で、親になった時点ですでに卵や精子が成熟していて、あとは卵を生むだけ。餌もほとんど食べません。だから消化管が退化して、中には口が無いものまでいます。ところがあなたはは雪の上を何ヶ月もうろうろしながら、春の雪解けまで生きてらっしゃる。しかもあなたは口も消化管も立派だし、上陸した時点では、おくさんはまだ卵が産めない状態なんです。雪の上で微生物を食べ、生活していくなかで成熟していく。そうして、雪が融けて埋もれていた川がオープンになった時に、初めて交尾して産卵する。
それから、あなたは、羽根がないので雪の上での行動をずっと追いかけられるんです。細い棒で、あなたが歩いた後をずずーっとトレースしていたのですが、そうやって何匹もトレースしている内に、みんな同じ方向に動いていることに気が付いたんです。しかも自分が生まれた川の上流方向に向かっている! これは卵から親になるまでに水流で下流に流された分を取り返す行動なのですが、なぜ、自分の生まれた川の上流方向が分かるのか……。
結局、その理由が分かるまでにも10年位かかりました(笑)。太陽コンパスを使っていたんです。あなたが歩いている時に、太陽光を遮って虫から本物の太陽が見えないようにしておいて、反対側から鏡で照らして実際とは逆方向から太陽の鏡像を見せるという実験をしました。そしたら、全く反対方向に歩き出したんです。こうしてあなた方が太陽コンパスで方向を定めていることが分かった。しかし自分が進むべき川の上流はどのように分かるのか? 実はあなたは歩きながら川周辺の地形、特に斜面の傾斜方向を測ることで目的地を定めていたんです。斜面の最大傾斜に真っ直ぐに向かえば両足に均等に負荷がかかります。ところが最大傾斜方向からずれて歩くと、一方の足に負荷がかかってよけいに疲れるので、上流がどちらかが分かるというわけ。そして何ヶ月もかけて上流に向かい、産卵し命を果てる。あなた方が他の水生昆虫と違って長生きなのは、雪の上を長い間歩いて上流へ帰ってから産卵しなくてはライフサイクルが繋がらないからです。
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そしてな、
いまでも年賀状 くれるよ、日高先生というのその先生が評価してくださっておかげで卒業できて、いま「雪氷生物学」の学者として東京の大学の助教授になれた。
「自分の目で見て考え、不思議だと思うことを追求しなさい」と学生には教えているってな
おれ、ここで暮らしている、ここが好きなんだ
地球環境、覗きたいって思ったらやってきな、最近暑くってたまらない、そんなことないかい?
出典 賢い生き方のすすめ
第16回 「雪に閉ざされた世界から地球環境を覗くことができるのです」
www.nttcom.co.jp/comzine/no016/wise/index.html –
脚色 安田潤