宮津エコツアー · 天より地へ落ちたる橋にあらず。 天の橋立を世界遺産に 64

天より地へ落ちたる橋にあらず。 天の橋立を世界遺産に 64

天橋立 縁起 現代編

《1》

近畿の大地は、はじめから天橋立をつくろうとしていたわけではない。

はるかな昔、海の底で生まれた地層は、大陸の縁へと押し寄せ、折り重なり、砕かれ、やがて日本列島の骨格となった。

その大地は長い時をかけて隆起し、山をつくった。

山は雨を受け、無数の川を生んだ。

川は山を削り、石を砕き、砂をつくり、その一粒一粒を海へと運んだ。

一方、大地は動き続けた。

ある場所を持ち上げ、ある場所を沈め、盆地をつくり、琵琶湖を抱き、丹波の山々を起こし、丹後の大地を日本海へと突き出した。

そして海は、その大地の営みを受け取った。

山から運ばれてきた砂を波が拾い、潮が運び、風が寄り添い、長い年月をかけて、一筋の細い陸地へと積み重ねていった。

それは、人間が設計した橋ではない。

山が生み、川が運び、海が編み上げた橋である。

しかも、その始まりは、近畿の大地そのものの鼓動の中にあった。

地殻の変動が山をつくり、

山が川を生み、

川が砂を運び、

海がそれを再び結び合わせた。

そうして、気の遠くなるほど長い時間を経て、近畿という大地の物語は、ひとつの細長い砂の道にたどり着いた。

――天橋立。

人々は、天から架けられた橋が地上に落ちたのだと語った。

けれど、地球の時間から見れば、それはむしろ逆なのかもしれない。

地の奥深くで始まった物語が、

山となり、

川となり、

海へ至り、

最後に天へ向かって橋を架けたのである。

天橋立とは、天と地を結ぶ橋である以前に、山と川と海、そして悠久の地殻変動を結び合わせた、地球そのものの架け橋なのではないだろうか。

数億年にわたる大地の記憶が、

ひとつの砂州となって海上に姿を現した。

それは偶然に生まれた風景ではない。

近畿の大地が、気の遠くなるような時間をかけ、

最後に静かに書き上げた、

一篇の地球の詩なのである。

《2》

天橋立の砂は、山から運ばれてきた。

しかし、人々がそこに見たものは、砂ではなかった。

彼らはそこに、天と地を結ぶ橋を見た。

地殻変動が山をつくり、山が川を生み、川が海へ砂を運んだ。海はそれを一本の線として大地に返した。

そして人間は、その線を見つめ、そこに神話を描いた。

地球がつくった一本の砂州は、やがて日本人の想像力の中で天へと伸びる橋となった。

ここに天橋立の唯一無二性がある。

自然が文化を生み、文化が自然を再び発見する。

天橋立とは、その永遠の往復運動が、目に見える形となった場所なのである。

、、、、

元伊勢籠神社と(奥宮)真名井神社 | Powerspot Trip

《↑ 元伊勢籠神社と(奥宮)真名井神社 | Powerspot Trip

天橋立生成祝詞

掛けまくも畏き
天地のはじめより、

海の底なる大地は動き、

地は寄り、

地は重なり、

地は砕け、

幾億年の時を重ねて、

この国の骨となり、

山の根となり、

大地の礎となり給うた。

されば大地は、

あるところを高く起こし、

あるところを深く沈め、

山を生み、

谷を生み、

湖を抱き、

川の道を開き給うた。

山は天の雨を受け、

雨は谷を走り、

谷は川となり、

川は石を削り、

石は砕け、

砂となり、

その一粒、その一粒を、

はるかなる海へと送り給うた。

かくして、

地の奥深くに始まりし営みは、

山となり、

山は川となり、

川は砂となり、

砂は海へと至り給うた。

ここに海あり。

海は、山より来たる砂を受け、

波をもって拾い、

潮をもって運び、

風をもって寄せ、

寄せては重ね、

重ねては結び、

悠久の時を経て、

一筋の細き道を、

青き海の上に編み上げ給うた。

これ、人の造れる橋にあらず。

木を組み、

石を積み、

人の手によりて架けられし橋にあらず。

山が生み、

川が運び、

海が結び、

天地の営みが、

気の遠くなる時をかけて、

静かに架け給うた橋なり。

ここに、

近畿の大地の鼓動あり。

地殻は動き、

山は起こり、

雨は降り、

川は流れ、

砂は海へ至り、

海はこれを受け取り、

再び大地へと返し給うた。

かくして、

地より始まりし物語は、

山を経て、

川を経て、

海を経て、

ついに一筋の道となり、

天地を結ぶかたちを現し給うた。

その名を、

天橋立という。

人々はこれを見て、

天より橋の落ち来たるかと語り、

天と地を結ぶ神の橋なりと伝えたり。

されど、

地球の悠久なる時を仰ぎ見れば、

その物語は、

また異なる姿を現す。

地の奥深くに始まりしものが、

山となり、

山は川となり、

川は砂となり、

砂は海に抱かれ、

海はこれを結び、

ついに、

天へ向かう橋となり給うた。

されば天橋立は、

天より地へ落ちたる橋にあらず。

地より天へと、

悠久の時をかけて、

大地自らが架け上げたる橋なり。

ああ、

山よ。

川よ。

海よ。

風よ。

波よ。

雨よ。

そして、

地の奥深く、今なお動き続ける大地よ。

汝らの営みは絶えることなく、

その一つ一つが結ばれて、

ここに一筋の姿となりぬ。

砂の一粒は小さけれど、

その一粒に、

山の記憶あり。

川の記憶あり。

海の記憶あり。

そして、

はるかなる大地の記憶あり。

人はその砂州を見て、

ただ砂を見ることなく、

そこに橋を見たり。

人はその橋を見て、

ただ地を見ることなく、

そこに天を見たり。

ここに、

自然は文化となり、

文化は再び自然を照らし出す。

地球がつくりし一筋の砂州は、

人の心に神話を生み、

神話は歌となり、

絵となり、

祈りとなり、

幾世代を越えて、

今なお人の心に生き続ける。

天橋立よ。

汝は、

山と海との境にありて、

境を隔てるものにあらず。

こちらと彼方を結び、

地と天を結び、

悠久の過去と、

いまだ来ざる未来とを結ぶものなり。

地殻変動より生まれし山よ。

山より流れし川よ。

川より運ばれし砂よ。

砂を結びし海よ。

そのすべての営みが、

ここに集い、

ここに重なり、

ここに一つの姿を現し給うた。

これぞ、

天橋立。

天地の営みが、

目に見える姿となりしところ。

悠久の地球の記憶が、

一筋の砂州となりて、

この世に現れしところ。

自然が文化を生み、

文化が自然を再び見いだす、

その永遠の巡りの、

ここに姿を現し給うたところなり。

願わくは、

この山を守り、

この川を守り、

この海を守り、

この砂を守り、

そのすべてを結ぶ、

大地の記憶を守らんことを。

過ぎ去りし時を敬い、

今ある姿を慈しみ、

いまだ来ざる時代へ、

この奇跡の物語を、

手渡しゆかんことを。

天と地の橋、

山と川と海の橋、

悠久の時を結ぶ橋――

天橋立。

かしこみ、

かしこみも白す。

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